先日、第16回日本骨粗鬆症学会(2014年10月23日(木)~25日(土) 会場:京王プラザホテル、新宿)に参加してきました。全国から内科や整形外科の医師をはじめとして骨粗鬆症診療に関わる他職種の医療関係者が沢山参加されていました。
今回私は高齢者介護施設(有料老人ホーム)に協力していただき、施設入居者における骨粗鬆症とサルコペニアの関連を横断研究で調査した結果を報告しました。 抄録(発表にあたり少し修正しています)を下に紹介します。
今回の調査では、認知症の指標であるMMSEが平均8.1点(30点満点)、身体活動性や寝たきりの指標であるBarthelインデックスが平均21点(100点満点)と重症の寝たきり患者が中心でした。サルコペニアの有病率は93%と、ほとんどの方がサルコペニアに罹患しているという驚きの結果でした。会場の皆さんからは沢山の質問や意見をいただき、骨粗鬆症領域でもサルコペニアの関心が高まっていることを肌で感じることができました。
題名: 高齢者介護施設における骨粗鬆症とサルコペニアの実態
飛田 哲朗、 杉本 健治、飛田 拓哉、 今釜 史郎、石黒 直樹
1. 名古屋大学医学部整形外科
2. 安心生活在宅クリニックあおい
【背景】加齢に伴う筋肉減少症であるサルコペニアは、高齢者の移動能力・バランス低下や転倒、骨粗鬆症骨折の原因として近年注目を集めている病態である。また高齢者介護施設入居者(以下、施設入居者)数は近年増加の一途をたどっている。しかし施設入居者における骨粗鬆症およびサルコペニアのリスクの啓蒙は十分とは言えない。本研究の目的は横断研究により施設入居者における骨粗鬆症およびサルコペニアの実態を明らかにする事である。
【対象と方法】施設入居者60名(男性28名、女性32名、平均年齢81.4才)を対象とした。筋量は移動式体組成計(バイオスペース社Inbody S10)を用いて生体電気インピーダンス法により計測した。筋量の評価は四肢筋量を身長の二乗で除した補正四肢筋量(ASMI)を用い、日本人基準値により男性7.0kg/m2未満、女性5.8kg/m2未満をサルコペニアと診断した。骨量は踵骨超音波骨量測定計(GEヘルスケア社A-1000 EXP II)を用いてstiffnessおよびT値を評価し、骨粗鬆症骨折歴と併せてWHO基準により骨粗鬆症の診断を行い、各有病率と骨量と筋量の関係を検討した。
【結果】ASMI(平均±SD) は男性で5.40±1.3kg/m2、女性で3.82±0.84 kg/m2だった(P <0.001)。サルコペニアの有病率は93.3%(男性89.3%、女性96.9%)で、男女間に差は無かった(P=0.33)。骨粗鬆症の有病率は85.0%(男性71.4%、女性96.9%)で、男女間に有意差を認めた(P=0.009)。骨粗鬆症患者におけるサルコペニアの有病率は96.1%だった。筋量とstiffness 、T 値との間には有意な正の相関を認めた(r=0.62、P <0.001;r=0.58、P<0.001)。重回帰分析の結果、ASMIに有意に関連する因子はT値(β=0.36、P<0.001 )、年齢(β=-0.21、P =0.014)、性別 (β=0.38、P<0.001)、BMI(β=0.40、P<0.001)であった。
【考察】高齢者介護施設における骨粗鬆症とサルコペニアの関連が初めて明らかになった。これまでの報告ではサルコペニアの有病率は外来患者や地域住民で20-30%程度と報告されており、施設入居者のサルコペニア有病率は高い傾向にあった。さらに施設入居者は高率に骨粗鬆症を合併していた。施設入居者のfrailtyの強さを反映していると考えられた。筋量と骨量には密接な関連が認められ、施設入居者は転倒・骨折のハイリスク群であることが示唆された。骨粗鬆症の薬物治療と同時に、運動療法、栄養療法などのサルコペニアに対する治療介入が必要であると考えられた。
2014-11ー06