腰椎椎間板ヘルニアの新しい治療法 椎間板内酵素注入療法 ヘルニコア(R)

2022-02-01

椎間板は、椎間板は丈夫な線維輪の中に柔らかいゼリー状の髄核が詰まっている構造です。いわば”座布団”のような構造で身体を支えてます。ともすると長年の負担や外力などで、線維輪に傷が付き、柔らかい中身の髄核が飛び出します。飛び出た先にたまたま神経があると、神経を圧迫し炎症を起こし、腰痛、下肢激痛を引き起こします。 これが腰椎椎間板ヘルニアの病態です。

 

 飛び出た椎間板は炎症を起こしていますが、マクロファージの貪食により徐々に椎間板のサイズは減少し炎症は治まります。それとともに下肢の痛みは良くなります。腰椎椎間板ヘルニアは基本的には自然治癒する病態です。しかしながら、改善までの期間は人と場合により様々で、1ヶ月程度で良くなる人もいれば1年以上続く人もいます。 腰椎椎間板ヘルニアの治療の目的は、早期に痛みを減らすことになります。

 

 腰椎椎間板ヘルニアの治療方は主に手術をしない保存治療と手術治療の2つに別れます。保存治療は安静、コルセットによる外固定、リハビリ、腰椎の牽引、薬剤(NSAID、プレガバリン、ステロイド等)、ブロック注射があります。ブロックはトリガーポイント、仙骨ブロック、神経根ブロックがあります。

ブロックの効果の高さは神経根ブロック>仙骨ブロック>トリガーポイントの順です。一方お手軽さはトリガーポイント>仙骨ブロック>神経根ブロックの順です。

 

保存治療をしても効果が不十分であったり、家事・買い物などの日常生活が困難、学校や仕事が困難痛みが生活に支障をきたす場合には手術を検討します。手術の場合は数日間の入院、何週間かの休業が必要になることが一般的です。

 

保存治療で改善を得られないヘルニアに対しては、長年手術以外の治療法はなく、患者さんにとっては選択肢が限られていました。このような状況は2018年に発売された新薬、ヘルニコア(商品名コンドリアーゼ)を用いた椎間板酵素注入療法の登場によって変わりました。いわゆる「ヘルニアを溶かす薬」を、局所麻酔で椎間板に注射する治療法です。日本で開発されたヘルニコアを用いた椎間板酵素注入療法は低侵襲で効果は高く、7割程度の症例に有効です。僕自身は以前の職場で開発中のヘルニコアの治験に参加しましたが、投与された患者さんに劇的な効果があったことを記憶しています。

 

今回は、浜松医大整形外科坂野先生が報告されたヘルニコアの治療成績の論文和訳を紹介します。

 

Clinical outcome of condoliase injection treatment for lumbar disc herniation: Indications for condoliase therapy

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32111547/

 

コンドリアーゼ注射による腰椎椎間板ヘルニアの治療成績:コンドリアーゼ注射の適応に関して

 

要約

背景

コンドリアーゼは、日本では腰椎椎間板ヘルニア(LDH)に対して臨床使用が可能な新規の強力な化学髄核分解剤である。本研究の目的は、LDH患者に対するコンドリアーゼ療法の臨床転帰、および臨床転帰に影響を与える要因を評価することである。

 

方法は以下の通り。コンドリアーゼ注射を受けているLDH患者を登録した。症状の持続期間、ヘルニアのレベルとタイプ、ヘルニアのT2信号強度、有害事象、脊椎すべり症、椎間板後角5°以上、椎体移動3mm以上の割合などのベースラインデータを収集した。椎間板の高さ,椎間板の変性,ヘルニアの大きさ,足や腰の痛みに対する視覚的アナログスケール(VAS),Oswestry Disability Index(ODI)の変化を,ベースライン時と3ヵ月後の追跡調査で評価した.これらのデータを、コンドリアーゼ治療が有効な患者(VAS改善度が20mm以上:E群)と無効な患者(VAS改善度が20mm未満または手術が必要:I群)で比較した。

 

結果は以下の通り。47名の患者(女性20名、男性27名、平均年齢48歳)が対象となった。ヘルニアのレベルは、L2/3が1名、L3/4が2名、L4/5が23名、L5/S1が21名であった。症状の持続期間の中央値は8ヵ月であった。VASとODIの平均値は、ベースラインから3ヵ月後のフォローアップまでに有意に改善した(p < 0.01)。E群は33名(70.2%)、I群は14名で、うち3名は椎間板切除術の既往があった。脊椎すべり症と椎間板後方角≧5°の割合は、E群よりもI群の方が有意に高かったが、経靭帯型とT2強調画像で信号強度の高いヘルニア(highT2)の割合は、E群の方が有意に高かった。 椎間板ヘルニアの縮小は、E群の方が多く認められた。

 

結論 コンドリアーゼ注射により、LDH患者の症状が有意に改善した。コンドリアーゼ療法は、椎間板切除術の既往がある患者、脊椎すべり症の患者、椎間板後方角が5°以上の患者では効果が低く、経靭帯型と高T2ヘルニアでは効果が高まることがわかった。

 

背景

腰椎椎間板ヘルニア(LDH)は、変性した髄核や環状線維が椎間板から膨隆し、神経根を圧迫することで発症する。一般的には、足の痛み、腰の痛み、しびれなどの症状が現れる。ほとんどの場合、保存的治療によって痛みは改善する。しかし、日常生活に支障をきたすような長期間の治療は、社会的にも大きな問題となり、生産性の低下による経済的な負担も大い。生産性への影響を考慮すると、保存的治療よりも外科的治療の方が費用対効果が高いとする報告もある。したがって、十分な期間の保存的治療を行っても症状が改善しない場合には、外科的介入を検討すべきである。

外科的治療にメリットはあるが、合併症のリスクがある。化学的髄核融解療法(Chemonucleolysis, 椎間板酵素注入療法) は、LDHに対する侵襲性の低い治療法であり、椎間板の髄核を化学的に溶解させるものである。この治療法は、保存的治療と外科的治療の中間的な治療法と考えられている。Chymopapainを用いた化学的髄核溶解療法の有用性は、欧米の患者で広く報告されており、優れた臨床結果が得られている。有害事象としては、アナフィラキシー、感染症、出血、神経症状などがあるが、全体の死亡率は0.019%であり、外科的合併症に比べればリスクは著しく低い。

コンドロイチン硫酸ABCエンドリアーゼ(コンドリアーゼ)は、グラム陰性桿菌Proteus vulgaris由来の純粋なムコ多糖類分解酵素である。コンドリアーゼは、プロテオグリカンのグリコサミノグリカン(GAG)であり、髄核に豊富に存在するコンドロイチン硫酸とヒアルロン酸に高い基質特異性を持つ。chymopapainとは異なり、コンドリアーゼはプロテアーゼ活性を持たないため、神経組織や靭帯組織を障害することなく、化学的髄核溶解をすることができる。

第3相臨床試験により、LDH患者におけるコンドリアーゼによる化学核溶解療法の有効性と安全性、ならびに適切な治療量が決定された。コンドリアーゼは、LDHの椎間板内治療薬として日本の医薬品規制当局から承認されている。

 しかし、臨床第3相試験では、L4/L5またはL5/S1レベルの靭帯下型のLDHの患者のみを対象としており、経靭帯型のLDH、椎間孔型のLDH、または腰椎手術の既往のない患者は除外されていた。CondoliaseがTrans-ligamentous LDH、foraminal LDH、再発LDHの場合にどのような影響を与えるかはまだ不明である。そこで本研究では、LDH患者に対するcondoliaseを用いた化学的髄核融解療法の臨床転帰を調査し、臨床転帰に関連する要因を評価することを目的とした。

 

2. 対象と方法

2.1. 患者の募集

この前向き研究は、当院のInstitutional Review Board(No.18-220)で承認され、すべての患者から書面によるインフォームドコンセントを得た。コンドリアーゼの効果を評価するために、書面によるインフォームドコンセントを得た上で、すべてのタイプのLDHの患者を募集した。当科で2018年8月以降、LDHに対して椎間板内コンドリアーゼ注射を受け、3カ月以上のフォローアップを終えた患者を登録した。以下の状態が、椎間板内コンドリアース注入の適応となった。1)腰痛を伴う、または伴わない片側下肢痛、2)磁気共鳴画像(MRI)で確認された椎間板ヘルニアによる神経根の圧迫、3)圧迫された神経根の分布に一致する神経学的徴候、4)少なくとも1カ月間の投薬や麻酔ブロックなどの保存的治療への抵抗。除外基準は 1)馬尾症候群、2)重度かつ進行性の運動障害、3)多椎間の椎間板ヘルニアによる複数の神経根症状。コンドリアーゼ注射は、アナフィラキシーを引き起こす可能性のあるコンドリアーゼに対する抗体の生成を防ぐために、1つのレベルでのみ、患者の生涯で1回のみ行うことができる。

2.2. 手順

患者を半側臥位にして,透視下で,ヘルニアの反対側から21ゲージの椎間板穿刺針を挿入した。コンドリアーゼを1.2mLの生理食塩水に溶解し、1.25U/mLの溶液を調製した。針先が椎間板の中心に位置していることを確認した後,1mLを1回注入した。すべての注射は,椎間板内注射の技術について十分な訓練を受けた,登録された学会認定の脊椎外科医によって,局所麻酔下で行われた。注射後2時間は,アナフィラキシー反応の出現を監視するために,すべての患者を注意深く観察した。その後、生命活動が安定していることを確認した後、予防的な抗生物質の投与を行わずに帰宅させた。

2.3. データ収集と臨床評価

年齢,性別,ヘルニアのレベル,椎間板内注射と同レベルの椎間板切除術の履歴,症状の持続期間,有害事象などの人口統計学的および臨床的データをカルテから抽出した。痛みの強さと健康関連のQOL(生活の質)を評価するために、ベースライン時と3か月後のフォローアップ時に、足の痛みと背中の痛みを視覚的アナログスケール(VAS)で評価し、Oswestry Disability Index(ODI)を評価してデータを収集した。

2.4. X線写真による評価

注射前に腰部X線写真を撮影した。posterior intervertebral angle椎間角は、レントゲン側面前屈像で椎間板に隣接する椎体終板間の角度として定義した。Vertebral translation(椎体のズレ)は、側面前後屈X線写真において、注入する椎間板に隣接する上下の椎体の後縁間の距離の絶対差と定義した。脊椎すべり症(レントゲン側面での椎体が3mm以上のすべりと定義),椎間角が5度以上、椎体のズレが3mm以上の率を調べた。

注入前と3ヵ月後にMRIの結果を調べた。椎間板ヘルニアの種類(靭帯下脱出、靭帯通過、椎間板ヘルニア)、ヘルニアの信号強度(T2強調画像で高強度の発生)を評価した(図1)。椎間板の高さは、矢状画像の中央のスライスを基に、エンドプレートの中間点で算出した。罹患した椎間板の変性の程度は,Pfirrmann分類システムを用いて評価した。注入前と3ヵ月後の画像を比較し,椎間板の高さ,椎間板の変性,ヘルニアの大きさの変化を評価した。X線写真の評価は3人の脊椎外科医が行い、多数決で決定した。ヘルニアの縮小についても、3人の脊椎外科医のマジョリティーコンセンサスによって決定された。

 

2.5. 統計解析

患者は下肢痛のVASの変化によって2群に分類された。注入前と3ヵ月後の値を比較して、20mm以上の変化を示す改善が認められた場合、治療は有効であったと判断した。これらの患者をE群(効果ありefficacious)とした。腰椎の手術が必要な患者やVASの改善が20mm未満の患者は、I群(効果なし inefficacious)に分類された。両群間で背景データとX線写真のパラメーターを比較した。ベースライン時と3ヵ月後のデータを比較した結果、注射後3ヵ月以内に手術が必要となった5人の患者を除外した。

 

連続変数は,ShapiroeWilk検定で正規性を評価した後,必要に応じてペアt検定またはWilcoxon signedrank検定を用いて解析し,カテゴリー変数は,必要に応じてChi-square検定またはFisher's exact検定を用いて検定した。すべての統計解析は,SPSSバージョン23.0(SPSS Inc.,Chicago, IL, USA)を用いて行った.p値が0.05未満の場合、統計的に有意であると判断した。

 

3. 結果

当院で2018年8月から2019年5月の間にコンドリアース注射を受けたLDH患者63名のうち、以下の理由で16名を除外した。10人がフォローアップできず、2人が関節リウマチ、2人が他の脊椎疾患、1人がMRIを受けていない、1人がアンケートに回答しなかった。最終的に、女性20名、男性27名、計47名の患者が登録された。コンドリアーゼ注入時の平均年齢は48.0±17.7(15-81)歳で、患者のフォローアップ期間は平均34週間(12-48週間)であった。患者の人口統計データとベースラインの特徴を表1にまとめた。注射前の症状期間の中央値は8ヵ月(範囲:1~60)であった。3人の患者には同レベルの椎間板切除術の既往があった。筋力低下(徒手筋力テストでグレード4)は6名(12.8%)に認められた。ベースラインのVASは足の痛みが71mm、背中の痛みが51mmで、ODIは44.6%であった。ヘルニアのタイプは、靭帯下脱出型が33例(70.2%)、経靭帯脱出型が13例(27.7%)、椎間孔内ヘルニアが1例(2.1%)であった。

 有効性については,3ヵ月以内に手術が必要となった5例を除き,3ヵ月後のVAS(下肢痛と背部痛)とODIの平均値がベースラインに比べて有意に改善した(p<0.01)(図2)。注射後3カ月の時点で,33人(70.2%)の患者で痛みの緩和(VASの変化が20mm以上)が得られたが,8人は痛みの緩和が不十分(VASの変化が20mm未満)であり,6人は手術が必要であった。注入後3カ月以内にアナフィラキシーショックを起こした患者や、神経学的な悪化が見られた患者はいなかった。注射後1日以内に発疹が出た患者が1名いたが、標準的な皮膚科治療で治癒した。L5/Sヘルニアの患者1名は、注射を行ったレベルで椎間孔狭窄を発症し、L5神経根症状を引き起こし、手術が必要となった。

 E群とI群を比較すると、同じレベルで椎間板切除術を受けた患者には、コンドリアースは効果がなかった。年齢、性別、ヘルニアレベル、症状の持続時間については、各群間で有意な差はなかった(表2)。画像所見では、I群では脊椎すべり症の割合と椎間板後面角度が!5の割合が有意に高く、また、E群では経靭帯型とhighT2のヘルニアの割合が有意に高かった(p<0.05)(表3)。

ベースラインと注射後3カ月のMRI所見を比較すると(手術のために3カ月のMRI検査を受けられなかった5人を除く)、椎間板の高さが20%減少したのが15人(35.7%)、Pfirrmann gradeの進行が18人(42.9%)、椎間板ヘルニアが減少したのが26人(61.9%)であった。椎間板ヘルニアの減少は、E群でより多く見られた(p<0.01)(表4)。

 

3.1. 症例紹介

3.1.1. 症例1

症例は50歳の女性で,L5/S椎間板ヘルニアを患っており,圧迫された神経根の分布に一致した右下肢の痛みを呈していた。10ヶ月以上の保存療法は効果がなかった。コンドリアーゼ注射の2週間後には,有害事象もなく痛みが緩和された。足の痛みのVASは,ベースラインの100mmから治療後3カ月で20mmへと有意に改善した。靭帯下ヘルニアは注射後3ヶ月でMRIにより軽減された(Fig.3)。

3.1.2. 症例2

患者は68歳の男性で,L4/5椎間板ヘルニアを患っており,圧迫された神経根の分布に一致する右下肢の痛みを呈していた。4ヶ月以上の保存療法は効果がなかった。コンドリアーゼ注射の2週間後には,有害事象もなく痛みが緩和された。足の痛みのVASは,ベースラインの40mmから治療後3カ月で0mmへと有意に改善した。経靭帯ヘルニアは,T2強調信号強度から,注入3カ月後には減少していることがわかった(図4)。

 

4. 考察

我々の知る限りでは、これはLDH患者に対するコンドリアース療法の臨床結果と関連因子を評価した最初の報告である(経靭帯型および椎間孔ヘルニアを含む)。LDH患者のODIとVASは、コンドリアーゼを椎間板内に注入した3ヶ月後には有意に改善した。保存療法に失敗した後にもかかわらず、登録された患者の70.2%がコンドリアーゼ注入後に痛みのレベルが改善した。保存的治療に抵抗がある場合、従来は外科的治療によって優れた臨床結果が得られていた。手術のリスクと侵襲性を低減し、早期のリハビリテーションを実現する必要性から、低侵襲な技術の開発が進められている。しかし、これらの手技の多くは、初期費用が高く、習得に時間がかかるという問題がある。Chemonucleolysisは、手術よりも簡単で安価、かつ低侵襲でる。今回の研究では、アナフィラキシー、血管、神経系の合併症などの重篤な有害事象は報告されていないが、1名の患者がコンドリアーゼの注射後に発疹を経験した。コンドリアーゼ注射後のアレルギー反応は、5%の発生率と報告されている。Chymopapainと同様に、アレルギー反応は比較的頻繁に起こる有害事象である。今回の研究では、注射と同じレベルで脊柱管狭窄症が1例発生した。この合併症はこれまでに報告されたことがない。化学療法によって椎間板の高さが減少し、それが脊柱管狭窄の進行につながったのかもしれない。

コンドリアーゼ治療に影響を与える因子として、ヘルニア切除の既往、脊椎すべり症、椎間角が5以上の場合は、Chemonucleolysisの効果が少ないが、T2が高い経靭帯型ヘルニアは効果が高いことがわかった。

過去に椎間板切除術が行われたケースでは、線維化の存在が化学的核酸分解を阻害し、好ましくない結果となる可能性がある。さらに、脊椎すべり症や脊椎の不安定性があると、コンドリアーゼ療法に悪影響を及ぼす可能性がある。

椎間板ヘルニアの自然な縮小は、経靭帯ヘルニアの場合に頻繁に観察され、したがって、このタイプのヘルニアには良好な予後が期待できる。後縦靭帯を介した硬膜外腔へのヘルニアの移動は、血管供給を露出させ、炎症反応とマクロファージの貪食を引き起こし、ヘルニアの再吸収につながる 。経靭帯ヘルニアでは、コンドリアーゼが経靭帯的に押し出された髄核に到達して免疫反応を促進し、その結果、椎間板ヘルニアが軽減され、痛みが緩和される可能性がある。我々は、椎間板ヘルニアが椎間孔まで突出していた症例で、コンドリアーゼの注入が奏功した例を紹介した。椎間板ヘルニアを除去するためには、通常、椎間関節切除と椎間固定が必要である。コンドリアーゼ療法は、融合手術を避けることができるという点で、大きなメリットがあります。

椎間板ヘルニアでは、ベースラインでT2強調画像上に高強度ゾーン(HIZ)が頻繁に観察される。これは、椎間板由来の腰痛と相関することが報告されている。Pengらは、組織学的分析に基づいて、HIZにおいて血管新生と肉芽組織が発生し、免疫反応と炎症細胞のリクルートメントを誘発することを明らかにした。Rasekhiらは、T2強調画像で高い信号強度を示すヘルニアは、水分の多い椎間板ヘルニアを反映しており、痛みの期間が有意に短いことと関連していると報告した。我々は、コンドリアーゼによる除核が髄核の脱水を誘発し、高T2信号のヘルニアに対してより効果的な治療法であると報告している。

Komoriらは、MRIの所見から腰椎椎間板ヘルニア患者の病歴を調べ、臨床症状の軽減と椎間板ヘルニアの画像上の縮小と相関していることを明らかにした。今回の研究では、16人中9人がヘルニアの縮小を伴わない痛みの緩和を経験したが、ほとんどの患者(73%)がヘルニアの縮小を伴う痛みの緩和を報告した(表4)。

 

化学的髄核融解は、髄核の溶解により椎間板の変性を促進するため、注入後に椎間板の高さが減少し、椎間板の変性がある程度進行したことは、過去の研究と同様であった。キモパパインによる化学的核溶解後の長期的な椎間板高さの変化は、椎間板切除術後に観察されたものとほぼ同じであることが再確認されている。Szyprytらは、化学的核溶解後のMRIの変化を評価し、注入後1ヶ月と比較して、1年後には椎間板の高さがわずかに回復していることを報告した。また、13例中4例では、椎間板の信号強度が注入1ヶ月後から1年後にわずかに回復したという。コンドリアーゼが椎間板やその周辺組織に及ぼす長期的な影響についてはまだ不明であり、さらに検討する必要がある。

外科的椎間板切除術は、化学的髄核融解療法よりも良好な臨床結果をもたらすというっ文献はあるが、この治療法はLDHに対する保存的治療と外科的治療の中間的なものと考えられる。しかし、外科的治療と比較して、合併症の発生率が低く、コストも比較的低いことから、コンドリアーゼによる化学核溶解は外科的治療の代替となりうると考えられる。今回のシリーズでは、症状の持続期間が長い(1年以上)1例を除いて、コンドリアーゼの注入により有意な疼痛緩和が得られた。したがって、この方法は、手術の前に考慮すべき治療法である。 

 この研究にはいくつかの限界がある。第一に、3ヶ月間の追跡調査期間が短いため、コンドリアーゼ療法の長期的な有効性と合併症を明らかにするために、さらなる評価を続ける必要がある。第二に、サンプル数が少なく、重大な有害事象が観察されなかったため、本研究はコンドリアーゼの安全性を評価するのに十分ではなかった。chymopapainとは異なり、コンドリアーゼはGAGを特異的に分解し、プロテアーゼ活性を持たない[15]。したがって、コンドリアーゼは、椎間板やその周辺組織にダメージを与える可能性が低い。しかし、コンドリアーゼの安全性を十分に評価するためには、より多くの患者を対象としたさらなる臨床調査が必要である。

 

5. 結論

コンドリアーゼによる化学的髄核融解療法は、保存的治療に抵抗性のあるLDH患者の症状を改善し、重篤な有害事象を引き起こすことはない。この治療法は、椎間板切除術の既往がある場合や、脊椎のすべるがある場合、あるいは椎間角が5度以上の場合には、効果が低い可能性がある。コンドリアーゼの注入は、経靭帯型やヘルニアでT2強調画像での信号変化が大きい場合に最も効果的であると考えられる。

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自己紹介

飛田 哲朗 Tetsuro Hida

名古屋で脊椎外科医の仕事の傍ら、サルコペニアの研究をしています。

2017年-2018年 アメリカのサンディエゴに、家族連れで臨床留学しました。 

 

好きなテレビ:

未来世紀ジパング

 

池上彰さんが出る回とか、最高ですね。テレ東経済番組の面白さは安定してます。

 

好きな映画:

アメリカのSF映画。遺伝子エリートと雑草魂の葛藤がたまりません。同じアンドリュー・ニコル監督の「In Time(タイム)」もいいですね。

 

息子の難病の治療法開発を試みる銀行家の父の、実話を元にした物語。熱意と戦略がそろえば誰でも治療法開発に携われる可能性があるんですね。

Follow-up of 89 asymptomatic patients with adrenoleukodystrophy treated with Lorenzo's oil

論文のラストオーサーが父親。

 

 

NYのイタリアンレストランのある一夜が舞台。料理漫画の傑作「バンビ〜ノ!」全巻がこの1本に詰め込まれたような中身の濃さ、事件だらけです。イタリア料理好きにはたまらない数々の料理、ガーリックオイルが恋しくなります。

 

好きな飲み物:


最近はアメリカのマイクロブリュワリーと呼ばれる小規模ビール工房の地ビールにはまっています。

 

サンディエゴにあるBallast Point という醸造所のSculpin (Indian Pale Ale)というとても味が濃くてフルーティな種類のビールがお気に入りです。

 

 

 

リンク

朝日新聞、 「筋肉少なく肥満、高齢者の1割 名大、北海道の323人分析」(平成26年6月3日夕刊)

八雲町での疫学調査を取り上げていただきました。

名古屋テレビ UP! 注目ニュース「サルコペニア肥満」

2013年8月2日に放送された内容です。僕の研究を取り上げていただきました。とてもわかりやすくまとまっています。

 

リハビリテーション栄養・サルコペニア(筋減弱症)

サルコペニアのエビデンスが集積しています。勉強になります。

 

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