サルメテロールを始めとするβ2刺激剤は、筋量増加効果がありドーピング禁止薬の1つです。頻脈等の合併症はありますが、サルコペニア治療薬の候補の1つです。このサルメテロールの作用をin vitroで検討した論文を引用します。in vitroではアポトーシスを誘発してしまっていますが、実際の臨床では筋量は増加しています。このメカニズムが気になるところです。
Med Sci Sports Exerc. 2011 Dec;43(12):2259-73. doi: 10.1249/MSS.0b013e3182223094.
Effects of salmeterol on skeletal muscle cells: metabolic and proapoptotic features.
Duranti, et al.
サルメテロールの骨格筋での作用; 代謝とアポトーシスから。
目的: サルメテロールは、β2アドレナリン受容体作動薬で、喘息やCOPDの治療に用いられる。スポーツでは、高容量を用いることにより機能を促進する薬として用いられる。β作動薬の乱用は副作用があるだろうが、サルメテロールの骨格筋に対する作用の分子機構は未だはっきりしないs。
方法: サルメテロールの分化及び増殖の作用(0.1μM―10μM)をL6C5とC2C12細胞株を用いて評価した。代謝の効果は、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ (NADP+)(解糖系/糖新生を構成する酵素)、乳酸脱水素酵素(嫌気性解糖系の最終段階である乳酸 ⇔ ピルビン酸の反応を触媒する酵素)、クエン酸合成酵素(糖酸化過程において中心的な役割を果たす酵素の一つで、クエン酸回路(クレブス回路とも呼ばれる)の最初の段階に関わっている)、3-OH acyl-CoA dehydrogenase、アラニン トランスグルタミナーゼ(タンパク質とタンパク質をつなぎ合わせる活性) の活性を見た。 細胞毒性とアポート-シスは、MTSアッセイ、トリパンブルー色素排除試験法(青色のトリパンブルー色素が生細胞には取り込まれないことを利用し、生きている細胞と死んだ細胞を顕微鏡下で区別する手法)TUNEL assay(terminal deoxynucleotidyl transferase dUTP nick end labeling assay)(アポトーシスに伴って切断されたDNAの末端をラベルする方法です。酵素TdTを用いてDNA末端にビオチン標識dUTPを結合させ、さらにFITC-アビジン複合体を結合させて蛍光顕微鏡で観察したりFACSで測定)、ウェスタンブロット、免疫蛍光染色で評価した。
結果:
トリパンブルー色素排除試験法
Fig1 MTSアッセイで細胞増殖が低値の理由は、10μMで死亡した細胞が多いから。
Fig2 6日目以降から、有意差をもって、コントロールよりもsalmeterol投与群の方が生存率が低い。
Fig3 10μM 6時間 salmeterolに暴露。
ブラッドフォード法: Bradford method。タンパク質定量法。 クマシーG250は、単独の酸性溶液では465nmに可視光の吸収極大を持ち褐色を呈するが、タンパク質に結合すると吸収極大が595nmに移動し青色に見えることを利用。
GAPDH: 解糖系/糖新生を構成する酵素、LDH: 乳酸脱水素酵素(嫌気性解糖系の最終段階である乳酸 ⇔ ピルビン酸の反応を触媒する酵素)、CS: クエン酸合成酵素。好気性解糖の指標。HAD: 好気性脂肪代謝の指標。
ALT: アミノ酸代謝の指標。 (タンパク質とタンパク質をつなぎ合わせる活性)
短期間の治療でも、好気性代謝が活性化されていた。 GAPDH、CS、HAD、ALTがコントロールより上昇。 逆にLDHは減少。
Fig4 Hoechst: DNAを染色TUNEL assay : アポトーシスに伴って切断されたDNAの末端をラベルする方法です。蛍光顕微鏡で観察。
中期の高濃度Salmeterolにより、細胞分裂が休止し、アポトーシスが増える。
Fig5 アポトーシスのパスウェイ
外因性パスウェイ:細胞表面の細胞死レセプターとcapsase8 、
内因性パスウェイ: capsase9とミトコンドリアを介し、PARP, Bcl-2蛋白の活性、Smac/DIABLOパスウェイを活性化する。
Fig6 アポトーシスに際し、ミトコンドリアは局在と形状を変える。 Smac/DIABLOは通常ミトコンドリアにある。これを免疫染色した。
A Smac/DIABLO 通常の細胞はクモの巣状に染まるのに対し、Salmeterol治療後、Smac/DIABLO 細胞質全体に観察され、ミトコンドリアは核の周りに集中している。
B Smac/DIABLO の観察された細胞数。
結語として 6時間のサルメテロールの治療が筋肉細胞の代謝活性に効果的だ。 しかし、容量、時間依存的に細胞毒性がある。 中長期の使用は内因性のアポトーシスパスウェイを活性化させ、細胞毒性を発揮する。