サルコペニアの原因は未だに良くわかっていません。世界中の研究者が、その謎に挑戦し、治療法を開発しようとしています。ここでは、そうした筋肉の基礎研究を紹介します。 至らない点も多いですが、ご容赦ください。
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骨格筋の組織特異的幹細胞(TS細胞)。筋衛星細胞は通常静止期で、未分化な状態にあるが、骨格筋になんらかの損傷が生じた場合の再生や成長期に見られる骨格筋の肥大に際して、活発化して筋芽細胞へと分化し、myotubeを形成し、筋繊維を作る。筋組織の維持と再生に関与。sarcopeniaの原因、治療にかかわる可能性がある。
衛星細胞→→→→→筋芽細胞→→→→→筋繊維
静止期→活動期→増殖→分化→myotube形成→筋繊維への成長
遺伝子発現の順番
1.衛星細胞静止期…CD34, Pax7,Myf5/b-gal
2.衛星細胞活発化~筋芽細胞…MyoD
3.Myotube~筋繊維…Myog、MLC3F-tg
衛星細胞は静止期の細胞で、筋のダメージなどで活性化する。いったん活発化すると、衛星細胞は 衛星細胞由来の筋芽細胞に分化し、増殖し、それは分化し、myotubeに癒合するまで続く。そして筋繊維に成長する。筋肉は切除してすり潰して置換しても、機能的に新しい筋として再生する。50回以上再生することが知られている。
衛星細胞は体節を起源とする。衛星細胞は基底膜の下に位置する。 Myf5,MyoD, Mrf4, MyogeninなどHLH転写因子を有する筋発生調整因子(myogenic regulatory factors MRFs)を有する。筋発生の幹細胞はPax3とPax7を発現する。Pax7は、現在最も使いやすいマーカーである。衛星細胞はNMJ周囲に集積している。筋の発生源ごとに衛星細胞の形質は異なる。衛星細胞は生涯機能し続ける。
筋はMRFを介して、転写の調整を行っている。
・MyoD とMyf5をノックアウトしたマウスは完全に骨格筋を欠損する。
・Myogeninを欠損したマウスは、胎生期に死亡する。
・Mrf4欠損マウスは、さまざまな表現型がある
参照: Volume 54(11): 1177–1191, 2006 Journal of Histochemistry & Cytochemistry The Skeletal Muscle Satellite Cell: The Stem Cell That Came in From the Cold Peter S. Zammit, et al.
マウス骨格筋より筋サテライト細胞を効率的に単離するために,筋サテライト細胞特異的なSM/C-2.6という抗体を作製したことを報告された.筋サテライト細胞をFACSを用いて単離するためには,これまで複数の表面抗原染色による分画が必要であった
が,この抗体を用いることで容易に筋サテライト細胞を分画できるため,筋サテライト細胞を解析する上で非常に強力なツールである。
http://www.saitama-med.ac.jp/jsms/vol37/02/jsms37_117.pdf
Molecular characterization of stem cells in skeletal muscle
武 田 伸 一
(国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 遺伝子疾患治療研究部)
筋の発生には、様々な信号伝達経路が関与すると考えられているが、その中でも、代表的な3つのパスウェイを紹介する。
Myf5とMyoDを調整するパスウェイ
Myf5を調節するパスウェイは、Shh(sonic hedgehog)、Wint1、MyoDでポジティブに調整される。ShhはそのレセプターであるPtc(patched)に結合し、Smoを非抑制的に働き,Gliを活性化する。GliはMyf5のプロモーターに結合し、軸上の体節でMyf5を活性化する。 また、Myf5はWint1パスウェイでも活性化される。Wnt1はFzd(frizzled)受容体に結合し、 Dsh(dishevelled)を活性させ、GSK-3βを阻害する。GSK-3βを阻害することにより、βカテニンを安定化させ、これが核内に移動する。Tcf(T-Cell factor)と一緒になり、Myf5を、直接的、間接的に活性化させる。sFRPs(soluble Frizzled resepter proteins)はWntを隔離させる。そして、MyoDやMyf5の発現に抑制的に働く。最後に、Myf5はMyoDの発現を活性化させる。
Wnt7aはMyoDの発現をβカテニンパスウェイで活性化させる。Wint3aはb-カテニン/TCFパスウェイで、MyoD発現を直接間接的に活性化させる。また、Pax3はMyoDとMyf5の発現を調整する。MyoDの発現はTGFの一種であるBMPで抑制される。BMPは細胞表面のレセプターに結合し、これはR-SMADをリン酸化し、R-SmadとSmad4が複合体を形成し核内に移動する。R-SMADはDBP(DNA結合タンパク)を認識し、MyodとMyf5の発現を阻害する。
参照: NATURE REVIEWS | GENETICS VOLUME 4 | JULY 2003 | 495 LOOKING BACK TO THE EMBRYO: DEFINING TRANSCRIPTIONAL NETWORKS IN ADULT MYOGENESIS Maura H. Parker, et al.
MyoDとMyf5を欠損したマウスでは、骨格筋の形成が認められないことが知られている。 また、Wint3Aにより、筋の線維化が進む事や、Wntのインヒビターで筋前駆細胞の増殖が認められており、Wntが何らかの形で筋の形成にかかわっていることがわかっている。
参照:Brack, et al. Science 2003
Brack, et al. Science 2003
栄養、成長因子(IGF-1など)、運動などの様々な刺激を受け、PI3Kが活性化し、これが間接的にAKTを調整する。AKTは、TSC2(tuberous-sclerosis complex-2 )の活性を抑え、Rhebの抑制を、阻害する。RhebはmTORを活性化させ、S6K1を活性化させる。S6K1は筋肉のサイズに関与し、S6K1の欠損により、筋肉量が大きく減ることが知られている。S6K1欠損は、AMP(アデノシン一リン酸?)濃度を挙げ、エネルギーストレスを起こし、AMPKに働き、ミトコンドリアを増やし、有酸素代謝を増大させる。AMPKが増えると、TSC2を活性化させ、これがシグナルを阻害する。このようにして、筋肉のサイズを調整する。 筋肥大症に関連することで有名なマイオスタチンは、この経路でAKTを抑制すると考えられている。
参照: Muscle growth learns new tricks from an old dog Gustavo A Nader Nature Medicine 13, 1016 - 1018 (2007)
AKT/Mtorパスウェイは筋の増殖時にはupregulatedされ、筋の減少時には、ダウンンレギュレートされている。 Mtorを阻害するラパマイシンを加えると、筋の増殖が認められると報告されている。
参照:Bondine, et al. Nature Cell Biology 2003
Notchは、MyoDの発現を通じて、筋の分化に抑制的に働く。 NotchリガンドのDELTA-1(DLL1)が過剰に発現した鶏の体節では、筋節でのMyoDの発現が抑制され、分化が阻害される。その際、PAX3とMYF5は阻害されず、筋節が構成される。四肢でのDELTA-1(DLL1)の過剰発現は、同様に分化を抑制する。
参照: Notch signalling: a simple pathway becomes complex Sarah J. Bray, et al. Nature Reviews Molecular Cell Biology 7, 678-689 (September 2006)
The role of Delta-like 1 shedding in muscle cell self-renewal and differentiation1. Danqiong Sun, et al. J Cell Sci2008
Conboy, et al. Science 2003