2011.08.10
加齢した筋では、繊維化が起き、脂肪組織が増えます。筋肉の量の減少のみならず、質の変化も起きています。Wntシグナルがその繊維化にかかわるという、ちょっと前の論文を紹介します。この論文を書いたグループの属するStanford大学は、二種類のマウスを外科的に縫合したParabiotic mice の研究に長けているようで、websiteでは筋肉の他にも、肥満や、認知症の研究をやっているようでした。
Increased Wnt Signaling During Aging Alters Muscle Stem Cell Fate and Increases Fibrosis
Brack, et al. Science 317, 807 (2007)
「Wnt シグナル増強による加齢筋幹細胞分化方向の変化と、繊維化の促進」
まとめ。
・加齢による血清の環境因子の変化は、衛星細胞でのWntシグナルを増強させ、筋再生を阻害し、繊維化を促進する。
・血清中のWntもしくはWnt様の分子の作用している可能性がある。
・Wntの阻害が、高齢の筋肉やジストロフィーのように、筋の線維化が問題となるような組織の再生に有効かもしれない
要約
筋の再生能は加齢とともに低下するが、同時に筋の線維化も起きる。老齢マウスの筋の幹細胞(筋衛星細胞)が、筋原性から繊維原性の系統に変化し、さらにこの変化が高齢環境の因子によることを示した。我々はさらにこの変化が筋の前駆細胞におけるcanonicalなWntパスウェイの活性化を介し、Wntの阻害によって抑制されることを示した。さらに、老齢マウスの血清成分がWntレセプターであるFrizzledタンパクに結合し、これによりWntシグナルが増強することが分かった。これらの結果は、Wntシグナルが組織特異的な幹細胞の加齢と組織の線維化に重要であることが示された。
本文
骨格筋の加齢では、繊維化が進み、筋の再生のが落ちる。筋の組織が繊維や脂肪に置き換わる。FigS1 筋ジストロフィーでも、加齢に伴う筋の繊維化が認められる。我々はこの加齢にともなう筋の線維化を検討した。
In vivo, Parabiotic mouse study
加齢した筋の再生は、若齢の環境に置くことにより、活性化される。このことは少なくともDelta-Notchシグナルパスウェイが回復することと関連する。それゆえ、われわれは、加齢した組織を若齢環境に置くことにより、筋の線維化を防ぐことができるかを検討した。これには、高齢マウスと若齢マウスのparabiotic pair (対象となるマウスと外科的に末梢循環を共有させたモデルの事)を用いた。確かに、若齢マウスと結合したheterochroneの老齢マウスでは、再生した筋のコラーゲンの沈着が減少していた。Fig1A,B 逆に、若齢heterochronicマウスでは、若齢同士のisochronicマウスと比べ、コラーゲンの沈着が増加し、筋前駆細胞の増殖が減少した。この、年齢による環境因子の変化が加齢組織の線維化に重要である。
「heteroのparabiotic(結合させたマウス)では、損傷後の筋肉に若いマウスに老化の特徴であるコラーゲン沈着が増え、高齢のマウスでは逆に減っていた。若いマウスの全身的環境が、筋肉の老化防止に重要か。」
In vitro, isolated cell analysis
我々は6ヶ月以下の若齢マウス由来の筋の細胞と、24か月以上の加齢マウスの筋細胞を用いて、加齢に関連した繊維化の因子が無いか実験した。 Single fiber culture では、若年マウスでは99%の筋繊維の単核細胞は筋原性で、筋繊維の単離から2日後に筋原性のマーカー(Pax7、MyoD,Desmin)を発現していた。老齢マウスでは98%が筋原性だった。(Fig2A) さらに半日後、筋原性以外の細胞は、若い筋肉では1%以下のままであったが、加齢筋では、17%以下に増加し、繊維化の形態を呈した。Fig2B 剥離操作やアポトーシスによる細胞の喪失は無かった。非筋原性細胞の分化は、老齢細胞の方が少なかった。FigS2 それゆえ、老齢筋で繊維細胞の割合が増えたのは、筋原性細胞が非筋原性細胞に変化したことが最も考えられる。
細胞を単離し、マーカーを用いて、筋原性細胞の割合を調べた。高齢の細胞では、筋原性細胞の割合が時間とともに減った。繊維原性細胞が増えたと考えられた。
加齢に伴い、衛星細胞の機能は低下する。加齢筋では、ノッチ経路の活性化や、若齢環境への暴露により、再生能力が上がる。このことは機能的変化は、可逆的なものであることを示す。 加齢に伴う筋原性から繊維原性への変化の可逆性をテストするために、若齢および老齢マウスのHetero- とIso- のparabiotic pairで衛星細胞の子孫を検討した。Hetero環境に暴露された加齢組織は、筋原性から繊維原性へ変化が減少した。(17%→10%) 対照的に、若齢組織は、増えた。(1%→9%)Fig2C 我々は、また、若齢と高齢細胞をin vitroで若い血清と年寄りの血清に暴露させた。老齢の血清では、筋原性から繊維原性への変化が増加し、逆に若齢の血清では筋原性から繊維原性が減少した。Fig2D 若齢血清で維持された若齢細胞のうちほぼ100%が分化誘導でMyosin heavy chain を発現した。逆に、高齢血清で維持された細胞は、75%以下しかMyhを発現しなかった。FigS3 合わせると、これらの結果は、筋原性前駆細胞は筋原性の系統が、老齢環境になることにより変化したと考えらえる。
筋肉の幹細胞である衛星細胞は、高齢マウス由来のものであっても、若年の血清に暴露すると、繊維化が減少し、分化能が改善した。
myogenic lineage studies
我々は、加齢による全身の環境の変化が筋原性から繊維原性への変化を促進することを確認するため、遺伝子の系統を追った。繊維原性細胞を特定するための特異的なマーカー(ER-TR7)を用いた。このマーカーは特異性が高く(100%)、感度も高い(93%)。筋原性の系統の研究のために、Pax7.Cre-ER.ROSA26マウスを用いた。この種は、タモキシフェン投与でCre遺伝子の遺伝子組み換えが起き、筋原性細胞のみにb-galの発現が誘導されるマウスである。
このマウスから採取した筋の前駆細胞を、若い血清で培養する。そうすると、b-gal陽性細胞は、筋原性であるといえるようになる。(Myod陽性、Pax7陽性、ER-TR7(繊維化のマーカー)陰性)。しかし、高齢の血清では、b-gal陽性細胞のうち18%は、Pax陰性、Myod陰性になり、10%は、ER-TR7陽性と繊維細胞の性質を呈する。FigS4このことにより、筋原性細胞から繊維原性細胞への変化が証明された。
トランスジェニックマウスの細胞を、高齢血清で培養すると、筋原性細胞から、繊維原性細胞に変わったことが確認できる。
Wntと加齢
Wntパスウェイを活性化させると、他の論文では繊維細胞への変化が確認されている。筋肉と純化した衛星細胞でのWntパスウェイの活性化と、加齢、繊維化の関連を調べた。(FigS6)Axin2はWntの下流にあるターゲットだ。筋障害のない細胞でのAxin2の転写は、高齢マウスで増加している。(FigS7A)さらに、高齢マウス由来の純化した衛星細胞は若い細胞よりも多くAxin2を発現する。(Fig3A) さらに、TOPGALマウス(b-galの発現が、Wntシグナルの発現を表すレポーターマウス。)での解析では、加齢により、Wntシグナルの発現が増えていた。FigB3
加齢により、Wntシグナルの活性が上がる
古典的Wntシグナルの他の化合物、 GSK3bと、その基質であるb-カテニンを調べた。高齢の衛星細胞では、FACSを用いて検討すると、GSK3bは減少し、b-カテニンは増加し、Wntシグナルが活性化した事を示唆する。Fig3C さらに、これらの変化は、Wintの阻害薬であるDKK1を添加すると、b-カテニンの活性が下がるため、Wntシグナルによることがわかる。FigS7B
Wnt阻害剤であるDKK1で、老齢マウス衛星細胞でのb-カテニンが抑制される。
In vivo 筋再生とWnt
筋再生におけるWntシグナルの働きの解析の為に、in vivoで解析した。筋障害を作ってから2日後に衛星細胞を単離し、FACSで解析した。b-カテニンの活性がある衛星細胞の割合が増加していた。FigS7C TOPGALマウスでは、障害した筋と、衛星細胞で、b-gal活性が増加していた。FigD3とFigS7DE TOPGALマウス衛星細胞を若齢高齢血清で培養すると、Fig3E 高齢血清のWntシグナルは増加し、これはWnt阻害剤のsFRP3で阻害された。筋再生in vivoモデルでも、障害筋および衛星細胞でWntの活性が上がり、Wnt阻害剤での阻害が確認された。
血清成分とWntの検証
Heteroの合体モデルの効果がWntと関係あるかを確かめた。確かに、heteroのペアの高齢マウスの細胞は、Wntシグナルが減少していた。若齢マウスでは、逆に上がっていた。Fig3F このように、血清成分がWntシグナルの増強に関わることが分かった。
高齢マウスの血清成分は、Frizzled受容体に作用するのか?
Frizzled受容体に結合し、Wntシグナル活性をあげる可能性のある血清の成分を確認するため、キメラのWnt受容体結合タンパクであるFrizzled-Fc(Fc融合タンパク質は、タンパク質断片と融合した免疫グロブリン重鎖のFc領域から成るキメラポリペプチド)を用いた。Frizzled-Fcをふりかけ、血清の成分の影響を打ち消すと、FigS8 Frizzled-Fc もしくは、Ig-G-Fcを血清に混ぜ、LSLという、ルシフェラーゼでWntパスウェイを確認できるcell lineを培養した。 Frizzled-Fc を振り掛けると、高齢の細胞ではWntシグナルが減り、若齢では変わらなかった。Fig3G
高齢マウスの血清には、Frizzled受容体に結合し、Wntシグナルを活性化させる成分があるようだ。
Wnt3Aを用いて、繊維に分化させられるか?
Wntシグナルを変えて、直接筋再生時の分化の方向性を変えてみた。Wnt3Aタンパクを若年血清に加え、筋―繊維の変化を若い衛星細胞のin vitro で引き起こした。Fig4A 逆に、筋―繊維の変化は高齢マウスでは、Wnt阻害剤で防ぐことができた。
In vivoでは、Wnt3Aの注射で、再生筋の結合織の沈着が増えた。Fig4B これは老齢マウスとよく似ている。さらに、外因性のWntは、細胞分化を防いだ。Fig9A さらに、DKK1を加えると、老齢筋では繊維化を防いだが、若齢筋では変わらなかった。Fig4C SFRP3も同様であった。FigS9BC
考察
本研究で、加齢による全身的な環境因子の変化により、筋幹細胞が性質を保つことができなくなり、筋から繊維への変化が起きる。
In vivoでは、加齢による環境変化は筋再生を阻害し、繊維化を促進する。
この変化は、衛星細胞でのWntシグナルの増強による。血清中のWntもしくはWnt様の分子の作用の可能性がある。
加齢におけるWntの働きは、Klotho遺伝子とWntが老化にかかわるとする報告と矛盾しない。(、KlothoはWntシグナルを抑えていて、KlothoがなくなるとWntシグナルが亢進してcellular senescenceになり、それが個体の老化促進に寄与している。)
Wntが発達と、生下後の様々な働きをしていることは間違いない。今回報告した筋再生阻害の働きからは、Wintは、発達段階で筋系統の進化を促進しているかも知れない。
Wntが多様に働く理由には、その発達や加齢の段階で、シグナルのタイミングが変わり、相互作用のシグナルが変化し、細胞分化を変化させていることと関連しているかも知れない。
今回の結果で、組織の再生、特に高齢の筋やジストロフィーのような筋の線維化が問題となる組織に有効かもしれない。
Increased Wnt Signaling During Aging Alters Muscle Stem Cell Fate and Increases Fibrosis
Brack, et al. Science 317, 807 (2007);
加齢筋でのWnt シグナル増強で幹細胞の分化が変わり、繊維かが増強した。
まとめ。
・加齢による血清の環境因子の変化は、衛星細胞でのWntシグナルを増強させ、筋再生を阻害し、繊維化を促進する。
・血清中のWntもしくはWnt様の分子の作用している可能性がある。
・Wntの阻害が、高齢の筋肉やジストロフィーのように、筋の線維化が問題となるような組織の再生に有効かもしれない
要約
筋の再生能は加齢とともに低下するが、同時に筋の線維化も起きる。老齢マウスの筋の幹細胞(筋衛星細胞)が、筋原性から繊維原性の系統に変化し、さらにこの変化が高齢環境の因子によることを示した。我々はさらにこの変化が筋の前駆細胞におけるcanonicalなWntパスウェイの活性化を介し、Wntの阻害によって抑制されることを示した。さらに、老齢マウスの血清成分がWntレセプターであるFrizzledタンパクに結合し、これによりWntシグナルが増強することが分かった。これらの結果は、Wntシグナルが組織特異的な幹細胞の加齢と組織の線維化に重要であることが示された。
本文
骨格筋の加齢では、繊維化が進み、筋の再生のが落ちる。筋の組織が繊維や脂肪に置き換わる。FigS1 筋ジストロフィーでも、加齢に伴う筋の繊維化が認められる。我々はこの加齢にともなう筋の線維化を検討した。
In vivo, Parabiotic mouse study
加齢した筋の再生は、若齢の環境に置くことにより、活性化される。このことは少なくともDelta-Notchシグナルパスウェイが回復することと関連する。それゆえ、われわれは、加齢した組織を若齢環境に置くことにより、筋の線維化を防ぐことができるかを検討した。これには、高齢マウスと若齢マウスのparabiotic pair (対象となるマウスと外科的に末梢循環を共有させたモデルの事)を用いた。確かに、若齢マウスと結合したheterochroneの老齢マウスでは、再生した筋のコラーゲンの沈着が減少していた。Fig1A,B 逆に、若齢heterochronicマウスでは、若齢同士のisochronicマウスと比べ、コラーゲンの沈着が増加し、筋前駆細胞の増殖が減少した。この、年齢による環境因子の変化が加齢組織の線維化に重要である。
「heteroのparabiotic(ベトちゃんドクちゃん型合体マウス)では、損傷後の筋肉に若いマウスに老化の特徴であるコラーゲン沈着が増え、高齢のマウスでは逆に減っていた。若いマウスの全身的環境が、筋肉の老化防止に重要か。」
In vitro, isolated cell analysis
我々は6ヶ月以下の若齢マウス由来の筋の細胞と、24か月以上の加齢マウスの筋細胞を用いて、加齢に関連した繊維化の因子が無いか実験した。 Single fiber culture では、若年マウスでは99%の筋繊維の単核細胞は筋原性で、筋繊維の単離から2日後に筋原性のマーカー(Pax7、MyoD,Desmin)を発現していた。老齢マウスでは98%が筋原性だった。(Fig2A) さらに半日後、筋原性以外の細胞は、若い筋肉では1%以下のままであったが、加齢筋では、17%以下に増加し、繊維化の形態を呈した。Fig2B 剥離操作やアポトーシスによる細胞の喪失は無かった。非筋原性細胞の分化は、老齢細胞の方が少なかった。FigS2 それゆえ、老齢筋で繊維細胞の割合が増えたのは、筋原性細胞が非筋原性細胞に変化したことが最も考えられる。
細胞を単離し、マーカーを用いて、筋原性細胞の割合を調べた。高齢の細胞では、筋原性細胞の割合が時間とともに減った。繊維原性細胞が増えたと考えられた。
加齢に伴い、衛星細胞の機能は低下する。加齢筋では、ノッチ経路の活性化や、若齢環境への暴露により、再生能力が上がる。このことは機能的変化は、可逆的なものであることを示す。 加齢に伴う筋原性から繊維原性への変化の可逆性をテストするために、若齢および老齢マウスのHetero- とIso- のparabiotic pairで衛星細胞の子孫を検討した。Hetero環境に暴露された加齢組織は、筋原性から繊維原性へ変化が減少した。(17%→10%) 対照的に、若齢組織は、増えた。(1%→9%)Fig2C 我々は、また、若齢と高齢細胞をin vitroで若い血清と年寄りの血清に暴露させた。老齢の血清では、筋原性から繊維原性への変化が増加し、逆に若齢の血清では筋原性から繊維原性が減少した。Fig2D 若齢血清で維持された若齢細胞のうちほぼ100%が分化誘導でMyosin heavy chain を発現した。逆に、高齢血清で維持された細胞は、75%以下しかMyhを発現しなかった。FigS3 合わせると、これらの結果は、筋原性前駆細胞は筋原性の系統が、老齢環境になることにより変化したと考えらえる。
筋肉の幹細胞である衛星細胞は、高齢マウス由来のものであっても、若年の血清に暴露すると、繊維化が減少し、分化能が改善した。
myogenic lineage studies
我々は、加齢による全身の環境の変化が筋原性から繊維原性への変化を促進することを確認するため、遺伝子の系統を追った。繊維原性細胞を特定するための特異的なマーカー(ER-TR7)を用いた。このマーカーは特異性が高く(100%)、感度も高い(93%)。筋原性の系統の研究のために、Pax7.Cre-ER.ROSA26マウスを用いた。この種は、タモキシフェン投与でCre遺伝子の遺伝子組み換えが起き、筋原性細胞のみにb-galの発現が誘導されるマウスである。
このマウスから採取した筋の前駆細胞を、若い血清で培養する。そうすると、b-gal陽性細胞は、筋原性であるといえるようになる。(Myod陽性、Pax7陽性、ER-TR7(繊維化のマーカー)陰性)。しかし、高齢の血清では、b-gal陽性細胞のうち18%は、Pax陰性、Myod陰性になり、10%は、ER-TR7陽性と繊維細胞の性質を呈する。FigS4このことにより、筋原性細胞から繊維原性細胞への変化が証明された。
トランスジェニックマウスの細胞を、高齢血清で培養すると、筋原性細胞から、繊維原性細胞に変わったことが確認できる。
Wntと加齢
Wntパスウェイを活性化させると、他の論文では繊維細胞への変化が確認されている。筋肉と純化した衛星細胞でのWntパスウェイの活性化と、加齢、繊維化の関連を調べた。(FigS6)Axin2はWntの下流にあるターゲットだ。筋障害のない細胞でのAxin2の転写は、高齢マウスで増加している。(FigS7A)さらに、高齢マウス由来の純化した衛星細胞は若い細胞よりも多くAxin2を発現する。(Fig3A) さらに、TOPGALマウス(b-galの発現が、Wntシグナルの発現を表すレポーターマウス。)での解析では、加齢により、Wntシグナルの発現が増えていた。FigB3
加齢により、Wntシグナルの活性が上がる
古典的Wntシグナルの他の化合物、 GSK3bと、その基質であるb-カテニンを調べた。高齢の衛星細胞では、FACSを用いて検討すると、GSK3bは減少し、b-カテニンは増加し、Wntシグナルが活性化した事を示唆する。Fig3C さらに、これらの変化は、Wintの阻害薬であるDKK1を添加すると、b-カテニンの活性が下がるため、Wntシグナルによることがわかる。FigS7B
Wnt阻害剤であるDKK1で、老齢マウス衛星細胞でのb-カテニンが抑制される。
In vivo 筋再生とWnt
筋再生におけるWntシグナルの働きの解析の為に、in vivoで解析した。筋障害を作ってから2日後に衛星細胞を単離し、FACSで解析した。b-カテニンの活性がある衛星細胞の割合が増加していた。FigS7C TOPGALマウスでは、障害した筋と、衛星細胞で、b-gal活性が増加していた。FigD3とFigS7DE TOPGALマウス衛星細胞を若齢高齢血清で培養すると、Fig3E 高齢血清のWntシグナルは増加し、これはWnt阻害剤のsFRP3で阻害された。筋再生in vivoモデルでも、障害筋および衛星細胞でWntの活性が上がり、Wnt阻害剤での阻害が確認された。
血清成分とWntの検証
Heteroの合体モデルの効果がWntと関係あるかを確かめた。確かに、heteroのペアの高齢マウスの細胞は、Wntシグナルが減少していた。若齢マウスでは、逆に上がっていた。Fig3F このように、血清成分がWntシグナルの増強に関わることが分かった。
高齢マウスの血清成分は、Frizzled受容体に作用するのか?
Frizzled受容体に結合し、Wntシグナル活性をあげる可能性のある血清の成分を確認するため、キメラのWnt受容体結合タンパクであるFrizzled-Fc(Fc融合タンパク質は、タンパク質断片と融合した免疫グロブリン重鎖のFc領域から成るキメラポリペプチド)を用いた。Frizzled-Fcをふりかけ、血清の成分の影響を打ち消すと、FigS8 Frizzled-Fc もしくは、Ig-G-Fcを血清に混ぜ、LSLという、ルシフェラーゼでWntパスウェイを確認できるcell lineを培養した。 Frizzled-Fc を振り掛けると、高齢の細胞ではWntシグナルが減り、若齢では変わらなかった。Fig3G
高齢マウスの血清には、Frizzled受容体に結合し、Wntシグナルを活性化させる成分があるようだ。
Wnt3Aを用いて、繊維に分化させられるか?
Wntシグナルを変えて、直接筋再生時の分化の方向性を変えてみた。Wnt3Aタンパクを若年血清に加え、筋―繊維の変化を若い衛星細胞のin vitro で引き起こした。Fig4A 逆に、筋―繊維の変化は高齢マウスでは、Wnt阻害剤で防ぐことができた。
In vivoでは、Wnt3Aの注射で、再生筋の結合織の沈着が増えた。Fig4B これは老齢マウスとよく似ている。さらに、外因性のWntは、細胞分化を防いだ。Fig9A さらに、DKK1を加えると、老齢筋では繊維化を防いだが、若齢筋では変わらなかった。Fig4C SFRP3も同様であった。FigS9BC
考察
本研究で、加齢による全身的な環境因子の変化により、筋幹細胞が性質を保つことができなくなり、筋から繊維への変化が起きる。
In vivoでは、加齢による環境変化は筋再生を阻害し、繊維化を促進する。
この変化は、衛星細胞でのWntシグナルの増強による。血清中のWntもしくはWnt様の分子の作用の可能性がある。
加齢におけるWntの働きは、Klotho遺伝子とWntが老化にかかわるとする報告と矛盾しない。(、KlothoはWntシグナルを抑えていて、KlothoがなくなるとWntシグナルが亢進してcellular senescenceになり、それが個体の老化促進に寄与している。)
Wntが発達と、生下後の様々な働きをしていることは間違いない。今回報告した筋再生阻害の働きからは、Wintは、発達段階で筋系統の進化を促進しているかも知れない。
Wntが多様に働く理由には、その発達や加齢の段階で、シグナルのタイミングが変わり、相互作用のシグナルが変化し、細胞分化を変化させていることと関連しているかも知れない。
今回の結果で、組織の再生、特に高齢の筋やジストロフィーのような筋の線維化が問題となる組織に有効かもしれない。
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Increased Wnt Signaling During Aging Alters Muscle Stem Cell Fate and Increases Fibrosis
Brack, et al. Science 317, 807 (2007);
加齢筋でのWnt シグナル増強で幹細胞の分化が変わり、繊維かが増強した。
まとめ。
・加齢による血清の環境因子の変化は、衛星細胞でのWntシグナルを増強させ、筋再生を阻害し、繊維化を促進する。
・血清中のWntもしくはWnt様の分子の作用している可能性がある。
・Wntの阻害が、高齢の筋肉やジストロフィーのように、筋の線維化が問題となるような組織の再生に有効かもしれない
要約
筋の再生能は加齢とともに低下するが、同時に筋の線維化も起きる。老齢マウスの筋の幹細胞(筋衛星細胞)が、筋原性から繊維原性の系統に変化し、さらにこの変化が高齢環境の因子によることを示した。我々はさらにこの変化が筋の前駆細胞におけるcanonicalなWntパスウェイの活性化を介し、Wntの阻害によって抑制されることを示した。さらに、老齢マウスの血清成分がWntレセプターであるFrizzledタンパクに結合し、これによりWntシグナルが増強することが分かった。これらの結果は、Wntシグナルが組織特異的な幹細胞の加齢と組織の線維化に重要であることが示された。
本文
骨格筋の加齢では、繊維化が進み、筋の再生のが落ちる。筋の組織が繊維や脂肪に置き換わる。FigS1 筋ジストロフィーでも、加齢に伴う筋の繊維化が認められる。我々はこの加齢にともなう筋の線維化を検討した。
In vivo, Parabiotic mouse study
加齢した筋の再生は、若齢の環境に置くことにより、活性化される。このことは少なくともDelta-Notchシグナルパスウェイが回復することと関連する。それゆえ、われわれは、加齢した組織を若齢環境に置くことにより、筋の線維化を防ぐことができるかを検討した。これには、高齢マウスと若齢マウスのparabiotic pair (対象となるマウスと外科的に末梢循環を共有させたモデルの事)を用いた。確かに、若齢マウスと結合したheterochroneの老齢マウスでは、再生した筋のコラーゲンの沈着が減少していた。Fig1A,B 逆に、若齢heterochronicマウスでは、若齢同士のisochronicマウスと比べ、コラーゲンの沈着が増加し、筋前駆細胞の増殖が減少した。この、年齢による環境因子の変化が加齢組織の線維化に重要である。
「heteroのparabiotic(ベトちゃんドクちゃん型合体マウス)では、損傷後の筋肉に若いマウスに老化の特徴であるコラーゲン沈着が増え、高齢のマウスでは逆に減っていた。若いマウスの全身的環境が、筋肉の老化防止に重要か。」
In vitro, isolated cell analysis
我々は6ヶ月以下の若齢マウス由来の筋の細胞と、24か月以上の加齢マウスの筋細胞を用いて、加齢に関連した繊維化の因子が無いか実験した。 Single fiber culture では、若年マウスでは99%の筋繊維の単核細胞は筋原性で、筋繊維の単離から2日後に筋原性のマーカー(Pax7、MyoD,Desmin)を発現していた。老齢マウスでは98%が筋原性だった。(Fig2A) さらに半日後、筋原性以外の細胞は、若い筋肉では1%以下のままであったが、加齢筋では、17%以下に増加し、繊維化の形態を呈した。Fig2B 剥離操作やアポトーシスによる細胞の喪失は無かった。非筋原性細胞の分化は、老齢細胞の方が少なかった。FigS2 それゆえ、老齢筋で繊維細胞の割合が増えたのは、筋原性細胞が非筋原性細胞に変化したことが最も考えられる。
細胞を単離し、マーカーを用いて、筋原性細胞の割合を調べた。高齢の細胞では、筋原性細胞の割合が時間とともに減った。繊維原性細胞が増えたと考えられた。
加齢に伴い、衛星細胞の機能は低下する。加齢筋では、ノッチ経路の活性化や、若齢環境への暴露により、再生能力が上がる。このことは機能的変化は、可逆的なものであることを示す。 加齢に伴う筋原性から繊維原性への変化の可逆性をテストするために、若齢および老齢マウスのHetero- とIso- のparabiotic pairで衛星細胞の子孫を検討した。Hetero環境に暴露された加齢組織は、筋原性から繊維原性へ変化が減少した。(17%→10%) 対照的に、若齢組織は、増えた。(1%→9%)Fig2C 我々は、また、若齢と高齢細胞をin vitroで若い血清と年寄りの血清に暴露させた。老齢の血清では、筋原性から繊維原性への変化が増加し、逆に若齢の血清では筋原性から繊維原性が減少した。Fig2D 若齢血清で維持された若齢細胞のうちほぼ100%が分化誘導でMyosin heavy chain を発現した。逆に、高齢血清で維持された細胞は、75%以下しかMyhを発現しなかった。FigS3 合わせると、これらの結果は、筋原性前駆細胞は筋原性の系統が、老齢環境になることにより変化したと考えらえる。
筋肉の幹細胞である衛星細胞は、高齢マウス由来のものであっても、若年の血清に暴露すると、繊維化が減少し、分化能が改善した。
myogenic lineage studies
我々は、加齢による全身の環境の変化が筋原性から繊維原性への変化を促進することを確認するため、遺伝子の系統を追った。繊維原性細胞を特定するための特異的なマーカー(ER-TR7)を用いた。このマーカーは特異性が高く(100%)、感度も高い(93%)。筋原性の系統の研究のために、Pax7.Cre-ER.ROSA26マウスを用いた。この種は、タモキシフェン投与でCre遺伝子の遺伝子組み換えが起き、筋原性細胞のみにb-galの発現が誘導されるマウスである。
このマウスから採取した筋の前駆細胞を、若い血清で培養する。そうすると、b-gal陽性細胞は、筋原性であるといえるようになる。(Myod陽性、Pax7陽性、ER-TR7(繊維化のマーカー)陰性)。しかし、高齢の血清では、b-gal陽性細胞のうち18%は、Pax陰性、Myod陰性になり、10%は、ER-TR7陽性と繊維細胞の性質を呈する。FigS4このことにより、筋原性細胞から繊維原性細胞への変化が証明された。
トランスジェニックマウスの細胞を、高齢血清で培養すると、筋原性細胞から、繊維原性細胞に変わったことが確認できる。
Wntと加齢
Wntパスウェイを活性化させると、他の論文では繊維細胞への変化が確認されている。筋肉と純化した衛星細胞でのWntパスウェイの活性化と、加齢、繊維化の関連を調べた。(FigS6)Axin2はWntの下流にあるターゲットだ。筋障害のない細胞でのAxin2の転写は、高齢マウスで増加している。(FigS7A)さらに、高齢マウス由来の純化した衛星細胞は若い細胞よりも多くAxin2を発現する。(Fig3A) さらに、TOPGALマウス(b-galの発現が、Wntシグナルの発現を表すレポーターマウス。)での解析では、加齢により、Wntシグナルの発現が増えていた。FigB3
加齢により、Wntシグナルの活性が上がる
古典的Wntシグナルの他の化合物、 GSK3bと、その基質であるb-カテニンを調べた。高齢の衛星細胞では、FACSを用いて検討すると、GSK3bは減少し、b-カテニンは増加し、Wntシグナルが活性化した事を示唆する。Fig3C さらに、これらの変化は、Wintの阻害薬であるDKK1を添加すると、b-カテニンの活性が下がるため、Wntシグナルによることがわかる。FigS7B
Wnt阻害剤であるDKK1で、老齢マウス衛星細胞でのb-カテニンが抑制される。
In vivo 筋再生とWnt
筋再生におけるWntシグナルの働きの解析の為に、in vivoで解析した。筋障害を作ってから2日後に衛星細胞を単離し、FACSで解析した。b-カテニンの活性がある衛星細胞の割合が増加していた。FigS7C TOPGALマウスでは、障害した筋と、衛星細胞で、b-gal活性が増加していた。FigD3とFigS7DE TOPGALマウス衛星細胞を若齢高齢血清で培養すると、Fig3E 高齢血清のWntシグナルは増加し、これはWnt阻害剤のsFRP3で阻害された。筋再生in vivoモデルでも、障害筋および衛星細胞でWntの活性が上がり、Wnt阻害剤での阻害が確認された。
血清成分とWntの検証
Heteroの合体モデルの効果がWntと関係あるかを確かめた。確かに、heteroのペアの高齢マウスの細胞は、Wntシグナルが減少していた。若齢マウスでは、逆に上がっていた。Fig3F このように、血清成分がWntシグナルの増強に関わることが分かった。
高齢マウスの血清成分は、Frizzled受容体に作用するのか?
Frizzled受容体に結合し、Wntシグナル活性をあげる可能性のある血清の成分を確認するため、キメラのWnt受容体結合タンパクであるFrizzled-Fc(Fc融合タンパク質は、タンパク質断片と融合した免疫グロブリン重鎖のFc領域から成るキメラポリペプチド)を用いた。Frizzled-Fcをふりかけ、血清の成分の影響を打ち消すと、FigS8 Frizzled-Fc もしくは、Ig-G-Fcを血清に混ぜ、LSLという、ルシフェラーゼでWntパスウェイを確認できるcell lineを培養した。 Frizzled-Fc を振り掛けると、高齢の細胞ではWntシグナルが減り、若齢では変わらなかった。Fig3G
高齢マウスの血清には、Frizzled受容体に結合し、Wntシグナルを活性化させる成分があるようだ。
Wnt3Aを用いて、繊維に分化させられるか?
Wntシグナルを変えて、直接筋再生時の分化の方向性を変えてみた。Wnt3Aタンパクを若年血清に加え、筋―繊維の変化を若い衛星細胞のin vitro で引き起こした。Fig4A 逆に、筋―繊維の変化は高齢マウスでは、Wnt阻害剤で防ぐことができた。
In vivoでは、Wnt3Aの注射で、再生筋の結合織の沈着が増えた。Fig4B これは老齢マウスとよく似ている。さらに、外因性のWntは、細胞分化を防いだ。Fig9A さらに、DKK1を加えると、老齢筋では繊維化を防いだが、若齢筋では変わらなかった。Fig4C SFRP3も同様であった。FigS9BC
考察
本研究で、加齢による全身的な環境因子の変化により、筋幹細胞が性質を保つことができなくなり、筋から繊維への変化が起きる。
In vivoでは、加齢による環境変化は筋再生を阻害し、繊維化を促進する。
この変化は、衛星細胞でのWntシグナルの増強による。血清中のWntもしくはWnt様の分子の作用の可能性がある。
加齢におけるWntの働きは、Klotho遺伝子とWntが老化にかかわるとする報告と矛盾しない。(、KlothoはWntシグナルを抑えていて、KlothoがなくなるとWntシグナルが亢進してcellular senescenceになり、それが個体の老化促進に寄与している。)
Wntが発達と、生下後の様々な働きをしていることは間違いない。今回報告した筋再生阻害の働きからは、Wintは、発達段階で筋系統の進化を促進しているかも知れない。
Wntが多様に働く理由には、その発達や加齢の段階で、シグナルのタイミングが変わり、相互作用のシグナルが変化し、細胞分化を変化させていることと関連しているかも知れない。
今回の結果で、組織の再生、特に高齢の筋やジストロフィーのような筋の線維化が問題となる組織に有効かもしれない。
線維化のマーカ-
ER-TR7,FSP1,そしてα-smooth muscle actin(SMA)
Joe, Nature Cell Biology 12, 153 - 163 (2010)