本文
医学教育においては、急性期痛風発作に用いていはならないとされてきた。急に血中尿酸値を下げると発作を悪化させるかもしれないとされていた。 ただ、尿酸降下薬の治療の遅らせることにより、発作がおさまったあとの慢性期の治療に懐疑的になり、多くの患者は慢性期の治療をすることすらしていなかった。
1964年にアロプリノールが臨床応用されて以来、発作中のアロプリノールの投与で発作が悪化するとされていた。 この推論は、痛風発作はアロプリノール治療初期(数ヶ月)に繰り返すことも多く、尿酸値の低下と関連していたためであった。 しかし、アロプリノールによる発作の悪化説はエビデンスがなく議論の余地があった。しかし、尿酸値の変動と微小な尿酸結晶の産生が関連すると考えられていた。
そのため、ガイドラインはややこしいことに、発作が終わってから、アロプリノールと尿酸排泄促進薬を開始するようにすすめていた。 せっかくのガイドラインがあるにも関わらず、治療法がわかりにくく、患者の理解も得られず、患者の治療に対するコンプライアンスは低かった。
もし発作の初期から十分量開始するようなわかりやすいやり方でアロプリノール治療を開始できれば、患者の教育、臨床成績改善、ひいてはコスト削減に有用であろう。
アロプリノール遅延投与はたった2つのケースシリーズに基づいたプアなエビデンスしかない。初発の痛風発作のプライマリケアにおいて発作中にアロプリノールを開始して、NASIDとコルヒチンの統一した治療法で検討した報告はない。
予防的なコルヒチンの投与は、痛風発作後やアロプリノールや尿酸排泄促進薬治療における再発を減らすことが知られている。
アロプリノールは発作を悪化させる可能性はあるが、発作初期に治療を開始するのが患者にとって最も良い可能性もある。そのため、医学界の定説にチャレンジをすることにした。本研究では、NSAIDとコルヒチンを併用することにより、アロプリノールを発作初期に導入しても、導入を遅延した場合と差がないとする仮説を証明する。
方法
パラレルアームの(クロスオーバーではない)プラセボを用いた二重盲検の単施設非劣性検討RCTを行った。発作急性期のアロプリノール300mg開始とプラセボを比較した。両群ともインドメタシンとコルヒチンを投与し、IRBの承認下に行った。
本試験は1998年から2009年にホワイトリバージャンクション(バーモント州、東海岸)の退役軍人病院で行われた。発作開始から7日以内に受診し、ACRの痛風発作診断基準を満たしたものの中で、エントーリーされた当日の関節液中に尿酸結晶を確認できた患者を対象とした。過去6ヶ月以内の、二次性痛風、痛風結節をともなう痛風、うっ血性心不全、凝固以上、腎不全、痛風の治療中患者、化学療法中などを除外した。初期治療にあたったものが、研究参加を判断したため、除外者の詳細は不明であった。
ランダム化とインターベンション
57名がランダム化され、アロプリノール群とプラセボ群に振り分けた。ランダム化は、薬剤師が薬局内に設置したの「ランダムナンバージェネレーター」で行った。第3者のみで行った。患者、評価者に対し、盲検化して行った。最初の10日間はアロプリノール、偽薬、10日間から30日間は両群ともアロプリノールを投与した。
評価項目とフォローアップ
プライマリアルトカムは10日目までの疼痛のVASと、30日目までの自己評価による関節炎の再発とした。再発の基準として、日記を付け、外来受診ごとに再発の有無を尋ねた。再発を確定する検査は行わなかった(過小評価を避けるため)。
セカンダリアウトカムは、 2005年以降から、ESR、CRPを測定した。血算、肝機能テスト、クレアチニンを薬剤毒性のモニターに利用した。血中尿酸値をコンプライアンスと急速な血中濃度の低下を検討するために測定した。3日後、10日後、30日後にフォローアップを行った。
サンプルサイズ
非劣性試験において、5%のタイプ1片側エラーとして、実際は0.5cmの劣化性のところを2cmの劣化性マージンを持ってディテクトするには92%の統計パワーが必要である。これまでVASを用いた痛風の研究はないため、2cmを臨床的に意味のあるVASの値とした。これは、RAの研究で1.5cmと設定されているため合理的である。 もしもこれが有効性試験だった場合、57名ではSD値を1.8cmとsて1.5cmのVASの違いを両側P値0.05で検出する場合の統計パワーは90%である。
統計学的検討
統計計画はstudy終了、データ集計前に建てられている。ベースラインデータはtテスト、chi二乗検定を行った。
VASは、linear mixed-effects model線形混合モデルを用いて、両群、日数の違いの有無を含めて検討している。
サブグループと感度検定
再発発作よりも、初回発作のほうが治療の違いに反応すると考えられる。その後の検定(post hoc)によるサブグループ解析を行い、初回発作と2回目以上のどちらがVASに関連したかを解析した。
Intention-to-treat解析は、結果を過小評価するおそれがあり、我々の仮設に有利な可能性があり、per-protocol解析を行い、プロトコルを完遂した患者のみを検討した。 ただし、脱落者はランダムではないため、VASの結果に対する感度検定を行った。ITT解析を行ったと仮定した場合、欠落データを参加者のVAS最高値と推定した場合と、各群の平均値と推定した場合のの2種類で感度検定をした。
コンプライアンスの評価は、compliance-adjusted analysisを行った。 3日後と10日後の尿酸値の値をもとに、コンプライアンスで補正した治療効果を変量として検討した。
結果
ベースラインデータに、両群間に差がなかった。
コンプライアンス
アロプリノール群で1名以外、全員が尿酸値が6.5mg以下になった。逆に、プラセボ群ではUA値が高く、10日後にアロプリノール開始してから急速に下がった。
痛みのVAS
10日間、VAS平均値、VASの縦断的な変化双方で2群間に有意差がなかった。ITTで解析しても、同等の結果であった。サブグループ解析では、痛風発作の既往の有無にかかわらず、VASの値は同等であった。
発作再発
アロプリノール群:7.7%(26例中2例)、プラセボ群:12.0%(25例中3例)であった。(P =0.61)
アロプリノール群1例は8日目の発作であった。残り4例は10-30日の間であった。
すべて初発の発作であった。
セカンダリアウトカム
CRP,ESRに有意差はなかった。
副作用
クレアチニン上昇が、各群1例ずつ、消化器症状によるコルヒチン減量が8例、12例にあった。アロプリノール群1例 80歳男性に肺炎等による急死があった。プラセボ群1例でアレルギーが30日目にあった。
考察
本研究は痛風発作に対して急性期にアロプリノール300mgを開始する、初めての二重盲検プラセボコントロルド・ランダム化比較試験だ。結果、両群で良好なVASの低下と、低い再発率を示した。ガイドラインにあるような、複雑な投与法ではなく、初期から十分量(300mg)投与することにより、尿酸血を目標まで下げることが出来た。ESRとCRPに違いはなかった。初期からアロプリノール投与した群では、すぐに尿酸値の低下が見られ、コンプライアンスは高かった。
近年のfebuxostatの研究における尿酸値の推移は、尿酸値の急激な低下と発作の頻度の関連を示していた。しかし、無症候の高尿酸血症患者のほとんどに痛風発作が起きないため、尿酸値だけではこの現象は説明が困難である。透析は急激に尿酸値を下げるが、発作とは関連しない。マウスの関節に尿酸血症を注入しても関節炎は起きないし、痛風患者の無症候の関節でも尿酸結晶が確認される。(尿酸やピロリン酸カルシウム結晶は、in vitroでは、サイトカインの誘導なく単球、マクロファージに貪食される。炎症性サイトカインの導入はこのモデルは細胞の初期化とインフラマソ-ムのプラットフォームの活性化に必要だ。)このように、尿酸値が痛風のきっかけとなるには、何か他のイベントが必要なのかもしれない。
発作再発率は、両群間に差はなかったが、実に全体で10%に及んだ。FebuxostatのFACT studyなど発作中に治療を開始しなかったの他の研究の再発率は11%から13%で、これらと比べても、アロプリノール群の再発率8%というのは、良い成績であった。
発作再発の頻度は低く、これまでの報告矛盾しないため、僅かな発生率の違いを検出するより大規模なstudyを行っても有意差は出ないであろう。
リミテーション
全てVAhospitalの男性患者のみを対象。 除外項目で合併症のある患者などを除外、初発患者と長期罹患患者をまとめて検討している点など。
また、初発患者にもアロプリノール治療を行っている。ガイドラインとは相違している。なぜなら、60%が1年以内に再発するため。コントロールされていない尿酸血症にともなう発作のコストは、6mg/dl以下にコントロールされている場合に比べ、約2倍になる。早期のアロプリノールの治療は、その副作用のデメリットよりも、NSAIDやコルヒチン使用量へらし、新規の高価な尿酸降下薬の使用を減らせるメリットのほうが大きいかも知れない。
将来的には、痛風結節や、二次性高尿酸血症による痛風発作にも有効化か確認する必要がある。シンプルな痛風治療は、コンプライアンスや費用の点でも有益であろう。最近は心血管にベントのリスクファクターとの話もある。発作初期にアロプリノールを導入するのは、こうしたリスクに対しても有用かもしれない。
結語
単純な痛風発作では、NSAID、コルヒチン、300mg一日1回十分量のアロプリノールが有効であろう。アロプリノールの漸増は、不要な通院を増やし、費用もかかり、投与量も少なくなりがちで、治療を難しくするため必要ない。