サルコペニアから離れますが、2010年7月のJAMAの慢性腰痛の論文をかいつまんで紹介します。大規模ランダム化比較試験の結果、慢性腰痛にグルコサミンは効果が無かったという結果でした。
慢性腰痛の原因として、心理的社会的背景が大きいことを考えると当然の結果かもしれません。
変形性脊椎症を伴う慢性腰痛におけるグルコサミンの疼痛性障害における効果
サマリー
【概要】変形性腰椎症にともなう慢性腰痛症は成人に広く蔓延した疾患である。グルコサミンは近年使用量が増加しているが、腰痛に対する効果はほとんどわかっていない。
目的: グルコサミンの脊椎変性に伴う慢性腰痛に対する効果を調べることである。
【デザイン、場所、参加者】 プラセボを用いた二重盲検ランダム化比較試験を、ノルウェイ、オスロ大学病院外来にて、変形性腰椎症に伴う6ヶ月以上持続する25歳以上の慢性腰痛患者250名を対象として行った。
【介入】 6ヶ月間の、一日1500mgの硫酸グルコサミン内服(125名)もしくはプラセボ(125名)を内服し、 6ヶ月後、1年後に効果を評価した。
【主要アウトカム評価法】プライマリアウトカムとして、Roland Morris Disability Questionnaire(RMDQ;0~24 で表しスコアが高いほど障害は深刻) により疼痛に関連した機能障害を6カ月後と12カ月後に評価した。セカンダリアウトカムとして、安静時、活動時の腰と下肢の痛みとし、Numerical Rating Scale(NRS 、「0=痛みなし」から「10=最悪の痛み」までの11ポイントで表す)で評価した。EuroQol-5 Dimensions(EQ-5D)を用いてた健康関連QOLを、調査開始時、6週、3か月、6か月、1年後に評価した。
【結果】 調査開始時RMDQ:グルコサミンで9.2(95%CI;8.4-10.0)、プラセボで9.7(95%CI;8.9-10.5)(P=0.37) 6ヶ月後RMDQ: グルコサミン、プラセボとも5.0(95%CI;4.2-5.8)、
1年後:グルコサミン4.8(95%CI;3.9-5.6)プラセボで5.5(95%CI;4.7-6.4)
6ヶ月後、1年後で有意差なし。(P=0.72)
【結語】 変形性腰痛症に伴う慢性腰痛に対して、6か月間の経口グルコサミン投与は6ヶ月後、一年後で疼痛に関連する機能障害の軽減に有効ではなかった。
背景
変形性関節症は、一般的な疾患で米国で2000万人以上が罹患していると考えられる。四肢の関節と同様に、脊椎も椎間関節の関節症をきたし、椎間板の変性をきたす。これらの所見は、しばしば腰痛とは関係なく認められる。にもかかわらず、これらの変形性関節症の所見が腰痛と関連するかも知れないとする研究もある。
腰痛は、誰にでもある症状で、プライマリケアの中では二番目に多い主訴である。診断と治療は医師にとって難しい。なぜならば病態がよく分かっておらず、治療法も限られているからである。グルコサミンはOAに対し広く使われている。しかしながら効果は議論の分かれるところで、エビデンスにも乏しい。膝や股関節に対するメタアナリシスや、ステマチックレビューは、効果は限定的と報告している。グルコサミンは腰痛患者にも使用されている。
グルコサミンは、軟骨を保ち炎症を抑える効果があると仮説されている。変形性の腰椎の変化は軟骨の破壊と炎症が関連するとされ、それゆえグルコサミンが有 効かもしれないとされる。いくつかの腰痛に対するグルコサミンの研究あるが、デザイン上の問題でエビデンスレベルが高いとは言えなかった。
腰痛におけるグルコサミンのより堅固なエビデンスが求められている。我々は、変形性腰痛症にともなう腰痛にたいする6か月間のグルコサミン投与の疼痛による障害への効果を検討するため、プラセボを用いた二重盲検ランダム化比較試験を行った。
方法
06年12月から08年7月までにOslo大学病院の外来に応募し、受診した、25歳以上の非特異的腰痛患者の中から、痛みが6カ月超持続しており、MRIにより変形性腰椎症と診断され、ノルウェー版Roland-Morris障害質問票(RMDQ、0~24 で表しスコアが高いほど障害は深刻)のスコアが3以上だった250人を登録した。
無作為に1500mg/日の市販のグルコサミン(125人、平均年齢47.5 歳)または偽薬(125人、49.4歳)に割り付け、6カ月間経口投与し、治療完了から6カ月後まで追跡した。
投与終了以降は患者が希望する治療を実施した。
主要アウトカム評価指標は6カ月後と12カ月後の疼痛関連の機能障害とし、RMDQを用いて評価した。24点満点。3点の改善を効果ありとした。
2次アウトカム評価指標は、安静時と活動時の腰と脚の痛みの強さとし、Numerical Rating Scale(NRS 、「0=痛みなし」から「10=最悪の痛み」までの11ポイントで表す)により評価。EuroQol-5 Dimensions(EQ-5D)を用いて健康関連QOL も評価した。
有害事象
血圧、血糖値、コレステロールを計測したが、グルコサミンの安全性の為、有害事象による早期の研究中止に関する検討は不要とした。
ランダム化:コンピューターにより、自動的に1:1ランダム化を行った。分析はintention-to-treatで行った。線形混合効果モデル: 治療効果判定、信頼区間、p値を算出。 時間および時間とグループの相互関係を固定因子とした。開始時のRMDQが効果に影響すると考えられたため、これで補正した。
結果
473人中、250人が基準を満たし、脱落者を含めて、ITT解析を行った。ベースラインのデータでは、EQ-5DのVASのみが有意差を認めた。
障害、痛み、QOLの結果: ベースラインのRMDQの平均値は、介入群9.2、対照群9.7 6カ月時のRMDQスコアの平均はどちらのグループも全く同じで、5.0。12カ月後は介入群4.8対照群5.5で、常に有意差なしという結果になった。
NRSの比較においても、安静時の腰痛、安静時の下肢痛、活動時の腰痛、活動時の下肢痛の全てにおいて6ヶ月後、12か月後に有意差はなかった。
EQ-5Dについても同様で、全ての評価時点で両群間に差は見られなかった。
フィギュア2を参照。 各評価指標において臨床的に意義のある最低限の改善(RMDQではスコアが3ポイント低下、NRSでは2ポイント低下など)を示した患者の割合を比較したが、どの時点、どの指標においても両群間に有意な差は見られなかった。
軽症の有害事象はグルコサミン群40人、偽薬群46人に認められた。重傷な有害事象として、プラセボで1名が手術を要する椎間板ヘルニア、グルコサミンで1名が死亡したが、研究とは関係なかった。
患者が割り付け薬以外に使用していた腰痛のための治療は、鎮痛薬、カイロプラクティック、理学療法、マッサージなど。治療中とその後6カ月間に、両群においてこれらを利用していた患者の割合には差はなかった。
考察
グルコサミンの使用は疼痛による障害、腰痛下肢痛、健康関連のQOL,治療効果、並行して行った治療効果を認めなかった。。
30%の患者で軽度の有害事象が認められたが、既知のもののみであった。研究を中止したのは、10名のみであった。
Medlineの検索では、これまでに慢性腰痛に対するグルコサミンの効果を検討した論文は3つあった。このうち2つは我々と反対の結論としており、残りの1つは症例数が少なく、結論が出ていなかった。本研究の選択基準では、グルコサミンに感受性のない人を選んでいるのかもしれない。しかしながら本研究の優位な点は、患者を多人数を対象としていることである。 2つの先行する研究では、患者の選考基準にRMDQ(痛みに関する障害)を用いておらず、またRMDQを用いた1つの研究では結論が出ていなかった。 ただし、RMDQを用いた選択の有無のみでは、逆の結果の違いは説明できず、先行する研究デザイン上の問題、すなわち40名以下のサンプルサイズ、盲検化未施行、信頼性の低い評価法により矛盾が産まれたのであろう。
本研究の対象患者は一般的な腰痛患者層を上手く再現していると考えられる。
腰椎におけるグルコサミンの効果は、他の関節よりも劣る可能性がある。いくつかの研究では膝のOAに対する効果を示唆している。GAITtrial(NEJM 2006)では膝のOAにおいてグルコサミンは軽度の痛みより、中等度から重度の膝の痛みへの効果を示唆した。一方、我々の研究、その他の膝、股関節OAの研究、一つのメタアナリシスでは効果は否定的だ。
これまでの2つのコックランレビュー、GUIDEスタディーでは弱いながらも、何らかの効果があることを示唆した。しかし、メタアナリシスの出版バイアスは否定できず、さらにはスポンサーバイアスの存在も示されている。股関節、膝OAの診療ガイドラインでは、グルコサミンの効果のエビデンスは限られているとされている。
本研究の強みとしては、盲検化RCT,高いフォローアップ率、ITT解析、6か月、1年の長期フォローアップ、企業の資金提供を受けていない事、独立した解析である。ノルウェイではグルコサミンは処方薬として流通しており、薬局で購入してしまうコンタミネーションが少ないのも特徴である。
リミテーション
無料参加であり、無料に惹かれる特定の参加者が増える可能性がある。同時の治療を許可したため、結果に影響した可能性がある。アドヒランスをカプセル数で 管理したが、正確とは言えない。最後に、本研究では、グルコサミンの薬物動態をするためにデザインされていない。臨床効果のみを検討していることである。
結語
脊椎変性にともなった慢性腰痛にグルコサミン投与は1年のフォローアップでは効果がなかった。
この結果から、脊椎変性にともなう慢性腰痛患者全員にグルコサミンを勧めることは賢明ではない。今後の課題として、特殊な腰痛の患者に効果があるか検討する必要がある。
原文は以下です。
参考サイト: http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/hotnews/jama/201007/516144.html
ちなみに、変形性膝関節症、変形性股関節症でも、否定的なエビデンスが昨年出ています。