腰椎圧迫骨折になるべく早く経皮的椎体形成術(BKP)を行うと成績が良い

BKPの早期介入の論文を紹介します。

患者さんから見れば、早く痛みがとれて動けるようになる早期手術のメリットは大きいと思います。

 学会発表では早期手術を推奨する報告がほとんどで、今後の主流になると考えられます。

早期BKPの英語論文はまだ数が限られています。国内からの報告を紹介します。

 

BKPに関する解説はこちら

脊椎骨折に対する低侵襲手術 経皮的椎体形成術(BKP)とは

 

 

 Early versus delayed kyphoplasty for thoracolumbar osteoporotic vertebral fractures: The effect of timing on clinical and radiographic outcomes and subsequent compression fractures

Minamide, et al. Clin Neurol Neurosurg . 2018 

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30149305/

 

 

ハイライト

・OVFに対するBKPによる早期介入と遅延介入の結果を比較した。

・BKPは一過性に後弯角とアライメントを改善することが可能である。

・BKPのフォローアップにより、後弯が術前のアライメントに戻ることが示唆された。

・早期のBKP介入は、全脊柱アライメントを維持するために重要であった。

 

・早期のBKP介入は、隣接椎体骨折の発生を減少させた

要約

目的  骨粗鬆症性椎体骨折(OVF)は、医学的・社会経済的に大きな負担となっている。椎体セメント固定と保存的治療の役割については議論が続いているが、後弯した脊椎アライメントが機能、疼痛、およびその後の骨折率に及ぼす長期的影響については、ますます認識されるようになってきている。本研究の目的は、OVFに対するBKPによる介入のタイミングが、臨床的および画像評価の結果に及ぼす影響を明らかにすることであった。

対象および方法 OVFに対してBKPを施行した51例(平均年齢75.5歳)を対象とした。BKPの実施時期により、早期(4週未満)と後期(4週以上)の2群に分けた。術前およびフォローアップ期間中に局所後弯、隣接椎体骨折、腰痛などの因子を評価し、二変量検定を用いて群間で比較した。

 結果 後ろ向き研究のサブグループ分析であった。早期群32例、後期群19例であった。術前骨密度に差はなかった。平均フォローアップ期間は1.2年であった。最終フォローアップ時の局所後弯は、早期グループ(-9.5°)より後期グループ(-28.4°)の方が有意に大きかった(p<0.001)。術前と最終フォローアップの間の局所後弯は、早期群(p=0.741)、後期群(p=0.794)とも有意差はなかった。早期のBKP治療を受けた患者は、LBPスコアが有意に良好で(p<0.05)、隣接椎体骨折の発生率が低い(p<0.05)ことが示された。

結論  BKPはOVF後に進行する圧潰と後弯を防ぐことができるが、アライメントを効果的に回復することはできない。その結果、早期BKP(4週間未満)を受けた患者は、治療後平均1.2年で、アライメントの改善、LBPスコアの改善、および隣接椎体骨折の割合の減少を認めた。

 

 

本文

はじめに

椎体骨折は骨粗鬆症に関連した骨折の中で最も一般的であり、特に高齢者において罹患率が高い。椎体骨折の自然経過、典型的には急性腰痛を伴い、骨癒合と脊椎の安定性の改善にともない徐々に治まる 。しかし、限られた症例では持続的な痛みが継続することがあり時に神経症状を伴う。その結果、日常生活動作(ADL)が著しく損なわれることがある。骨粗鬆症患者の後弯変形は、重心の前方移動により骨粗鬆症性椎体骨折を起こしやすくなる。さらに、一部の患者は偽関節による持続的な痛みを経験することになる [9, 10, 11]。偽関節は骨折後の慢性疼痛の原因となる。

椎体圧迫骨折の治療法には、装具、セメント椎体形成術、および従来型のopenの脊椎外科手術がある。最も一般的な治療経路は、保存的治療とセメント椎体形成術の2つである。多くの患者は、まず保存的治療を受け、臨床的に改善しない場合、および/またはX線写真で骨折の進行が見られる場合に、セメント椎体形成術の適応となる。

 保存療法とセメント椎体形成術を比較した先行研究はかなりあるが、セメント椎体形成術のタイミングにはほとんど注意が払われていない。これらの骨折の多くが時間とともに進行性の後弯を引き起こすという事実と、慢性疼痛および機能障害における矢状構造の変形の役割がますます認識されていることから、我々は、椎体圧迫骨折に対する治療の長期的な臨床結果およびX線画像に、セメント椎体形成術のタイミングがどのように影響するかを評価しようとした。

この研究の目的は、早期のセメント椎体形成術を受けた患者さんと、遅れて治療を受けた患者さんの臨床的およびX線写真の結果を比較することであった。副次的な結果として,隣接椎体骨折の発生率も両群間で比較した.我々は、椎体圧迫骨折に対して早期にセメント椎体形成術を行うことで、画像評価が改善し、長期的には腰痛の減少につながると仮定している。

 

 

対象と方法

本研究は、倫理委員会の承認を得ている。2014年1月から2017年6月の間に同一の整形外科医が行ったバルーン後弯形成術(BKP)の後ろ向きカルテ調査を実施した。胸腰椎(T10-L2)のOVFに対する計51件のBKP手術が確認された。全患者に脊椎の単純X線写真、磁気共鳴(MR)画像、および

治療後1週間以内に骨スキャンを実施した。

 

症例登録基準は以下の通りである。

(1) X線写真で椎体の高さが0~90%減少している圧迫骨折(VCF)

(2) 鎮痛剤に抵抗性の単一のVCFに伴う重度の腰痛 

(3) ADLに支障をきたすビジュアルアナログスケールで5点以上の痛み。

(4) 患部の椎体が T2 強度 MR 画像で限局性高信号、MRI T2強調像でびまん性低信号 [11] 、または T1強調像でびまん性低信号 [12] を示していること。

多発性骨髄腫、転移性骨疾患、神経根症、脊椎手術歴のある患者、または経過観察が6ヶ月未満の患者は除外した。患者は、脊椎形成術の実施時期によって2群に分けられた。1)早期群:骨折後4週間以内の患者、(2)後期群:骨折後4週間以上経過した患者である。標準的なプロトコールとして、参加者全員に術後3ヶ月間胸腰仙骨装具(TLSO)を装着してもらい、禁忌でない限り最低1年間骨粗鬆症の治療としてテリパラチド注射を行った。

 

手術手技

すべての手術は、患者さんに全身麻酔をかけ、うつ伏せの状態で、標準的なBKPの手法で行われました。すべての症例において、BKPは、標準的なBKP器械(Kyphon Xpander; IBT System, Binzwangen, Germany)を用いて、カニューレを両側から設置し、経椎弓根アプローチで行われた。

 

 臨床的アウトカム

患者は腰痛(LBP)の数値疼痛評価尺度(NPRS)(3点以上の改善で腰痛の軽減とした)を用いて術前と術後6ヶ月で評価を受けた。術前、術直後、術後6ヶ月の側面X線写真で局所後弯角と椎体高を測定した。局所後弯角は骨折した椎体終板の尾側と頭側に平行に引いた線がなす角度と定義した.

椎体の高さについては、骨折した椎体と骨折していない椎体の比率を算出した(図1)。骨折前の高さは、隣接する上下の非骨折椎体の測定値を4椎体まで平均化することで推定した。最終フォローアップ時に側面X線写真で隣接椎体骨折の有無を調査した。X線写真の測定とパラメータは、手術に関与していない独立した2人の検査者によって評価された。

 

統計解析

連続データは、特に断りのない限り、平均値±標準偏差で表示した。順序データは中央値で、名目データであれば比率で示す。名目変数はカイ二乗検定、標本が10以下の場合はフィッシャーの正確検定を用いて比較した。順序変数の中央値の比較にはマン・ホイットニー検定を用い、連続変数の平均値の比較には独立標本t検定を用いた。術前と術後の隣接骨折率と後彎角の改善度はマッチドペアt検定を用いて解析した.BKP術後のNRSスコアの変化を評価するために、反復測定分散分析を用いた。p値≦0.05を統計的に有意と定義した。すべての統計解析は、JMP version 11 (SAS Inc., Cary, NC, USA) を用いて行った。

 

 

結果

51症例を採用し、早期群32名(男性6名、女性26名、平均年齢74.6歳)、後期群19名(男性4名、女性15名、平均年齢77.1歳)であった(Table 1)。症状発現からBKPまでの平均期間は、早期群で15.8日、後期群で59日であった(p < 0.05)。骨密度の術前Tスコアは、両群間に有意差はなかった(p=0.646)。両コホートの平均追跡期間は1.2年であった。術後、NPRSスコアは各群で有意に改善した(p<0.01)。最終的なNPRSスコア は、早期群が後期群よりも有意に低かった(p<0.05)。術後の入院期間は早期群は後期群に比べ有意に短かった(p<0.05).

局所後彎角(術前/術後/最終)は,早期群で-10.1°/-6.4°/-9.5°,後期群で-27.6°/-19.8°/-28.4°となった(Table 2).局所後彎角については,すべての時点で両群間に有意差が認められた(p<0.01).術前評価と最終フォローアップの局所後彎角は各群で有意差はなかった(p = 0.741, p = 0.794)。骨折椎体と非骨折椎体の椎体高比率(術前/術後/最終)は、早期群で0.81 / 0.91 / 0.83、で0.54 / 0.64 / 0.58であった(Table 2)。両コホートにおいて、最終的な比率は、BKP術前に確認された比率と同等であった(p = 0.322, p = 0.194) (Table 3) (Figure 2). 隣接椎体変形の発生は、後期群で有意に高かった(p < 0.05; 表2; 図3)。

 考察

骨粗鬆症性椎体圧迫骨折は、高齢者の間でますます増加しており、医学的および社会経済的に大きな負担となっている。これまでの研究のほとんどは、保存的治療に対する椎体形成術の短期的な急性および亜急性臨床転帰に焦点を当てている。 椎体形成術(BKP、VP)は保存治療と比べて、早期に痛みが大幅に減少することが報告されている。6~12週の時点では、保存治療と椎体形成術両群の臨床的な改善はほぼ同じであるように見える。しかし、脊椎前方要素の破壊によって生じる局所的な後彎変形、および生体力学的変化が、慢性疼痛と隣接椎体骨折の発生に影響することが判明しつつある。先行文献によると、局所後彎は脊椎前方要素を短縮させ、隣接椎体への荷重を増加させ、骨折のリスクを高めることが示されている。そのため、セメント補強を受けた患者は、おそらく後弯変形予防と関連して、隣接椎体骨折の発生率が低下することが示されている。

 

 この研究で、我々は、臨床的および画像の結果に対する椎体形成術のタイミングを検証することを目指した。

本研究の結果からBKPは手術時に一過性のアライメントの改善をもたらすが、長期的には治療前のアライメントにもどる。言い換えれば、BKPは骨粗鬆症性骨折後の後弯の進行を止める能力はあるが、長期的な矢状面アライメントを効果的に改善することはできないということである。早期群(4週間未満)が後期群と比較して長期的なアライメントを有意に改善したかを説明するのに役立つ。早期群におけるアライメントの改善と関連して最終フォロー時の疼痛スコアの減少および隣接椎体骨折の減少がみられた。隣接椎体骨折の減少に関する我々の知見は、これまでの研究と一致しており、この現象は、椎体骨折の前弯減少に伴って生じる局所的な生体力学的環境の変化と関連していると思われる。

 

本研究にはいくつかの限界がある。まず、本研究は後ろ向き・コホート分析であり、各群のバックグラウンドと骨密度は差がなかったが、研究デザインよる限界はある。さらに、BKPと保存治療の選択、手術時期の選択に関するバイアスの可能性がある。このことは、痛みに関連したスコアにある程度影響を与えるかもしれないが、X線画像パラメータに影響を与える能力はないと考えている。サンプルサイズは限られており再現性に影響がある。より大規模で多様な患者群での更なる試験が必要である。この研究では、術後のサーベイランスが1年をわずかに超えているが、この期間が十分なフォローアップ期間となるはずである。しかしながら、我々は、さらに長い期間において、これらの患者コホートの追跡調査を継続する予定である。

 

 

結論

 

本研究は、骨粗鬆症性椎体骨折治療の複雑な性質に関する増えつつある文献と一致している。我々の研究は、セメント椎体形成による治療は、短期的に後弯を防ぐことができるが、長期的にアライメントを回復することはできないことを実証している。さらに、骨形成術のタイミングは最も重要であり、発症後4週間未満の早期の介入は、後期介入と比較して、長期的に良好なアライメントと隣接骨折割合の減少をもたらす。

2022-05-20

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自己紹介

飛田 哲朗 Tetsuro Hida

名古屋で脊椎外科医の仕事の傍ら、サルコペニアの研究をしています。

2017年-2018年 アメリカのサンディエゴに、家族連れで臨床留学しました。 

 

好きなテレビ:

未来世紀ジパング

 

池上彰さんが出る回とか、最高ですね。テレ東経済番組の面白さは安定してます。

 

好きな映画:

アメリカのSF映画。遺伝子エリートと雑草魂の葛藤がたまりません。同じアンドリュー・ニコル監督の「In Time(タイム)」もいいですね。

 

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論文のラストオーサーが父親。

 

 

NYのイタリアンレストランのある一夜が舞台。料理漫画の傑作「バンビ〜ノ!」全巻がこの1本に詰め込まれたような中身の濃さ、事件だらけです。イタリア料理好きにはたまらない数々の料理、ガーリックオイルが恋しくなります。

 

好きな飲み物:


最近はアメリカのマイクロブリュワリーと呼ばれる小規模ビール工房の地ビールにはまっています。

 

サンディエゴにあるBallast Point という醸造所のSculpin (Indian Pale Ale)というとても味が濃くてフルーティな種類のビールがお気に入りです。

 

 

 

リンク

朝日新聞、 「筋肉少なく肥満、高齢者の1割 名大、北海道の323人分析」(平成26年6月3日夕刊)

八雲町での疫学調査を取り上げていただきました。

名古屋テレビ UP! 注目ニュース「サルコペニア肥満」

2013年8月2日に放送された内容です。僕の研究を取り上げていただきました。とてもわかりやすくまとまっています。

 

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