末梢神経障害の隠れた原因のこともある神経痛性筋萎縮症(Neuralgic Amyotrophy)の疫学を前向きに調査した研究を紹介します。オランダの神経内科、Dr. Nens van Alfenからです。こちらの先生は本疾患の権威のようで、Nat Rev Neurol を始めとして、big journalに論文を沢山書かれています。
臨床医にあまり知られていない疾患概念のため過小評価されていますが、神経痛性筋萎縮症はこれまで考えられていたようなまれな疾患ではなく、1000人に1人が発症するcommon diseaseのようです。日常診療において、原因不明の末梢神経障害を診た際には、本疾患を必ず鑑別疾患にあげる必要があります。
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Incidence of Neuralgic Amyotrophy (Parsonage Turner Syndrome) in a Primary Care Setting - A Prospective Cohort Study
Nens van Alfen, et al. PLoS One. 2015 May 27;10(5)
要約
目的 神経痛性筋萎縮症(Neuralgic Amyotrophy)はまれな末梢神経疾患ではあるが、日常診療ではあまり鑑別診断に考慮されておらず、患者さんは充分な治療を受けていない。本研究では古典的な神経痛性筋萎縮症の発生率を前向き研究で調査した。
方法 2012年、前向きコホート研究で、人口14118人をカバーする二つの大規模プライマリケア診療所で新規頚部、肩、上肢痛のある患者を登録した。研究にあたり、古典的神経痛性筋萎縮症の診断のトレーニングを受けた。家族歴以外の既知の診断基準にそって診断した。古典的症例のみを確定診断とした。登録後、神経内科医に紹介して診断を確定した。
結果 492名が新規頸部、肩、上肢痛で登録され、34例が神経痛性筋萎縮症の疑い症例だった。神経内科専門医の診断で14名が確定診断とされた。神経痛性筋萎縮症の発生率は1/1000人/年だった。
結語 神経痛性筋萎縮症は、従来の報告よりも30-50倍多いことが分かった。
疾患自体があまり周知されていない事が理由だ。疾患の多さと、予後の悪さから、早期診断と適切なタイミングでの治療が後遺症予防に重要だ。
本文
背景
神経痛性筋萎縮症(Neuralgic Amyotrophy)はParsonage Turner syndrome や、特発性腕神経叢神経炎とも呼ばれる病気で、急性の重度の上肢痛に始まり直後から上肢の多発する運動麻痺を伴う末梢神経の疾患である。 回復には1-2年かかり長期間症状が残ることもある。さまざまなフェノタイプがあり、実際の診療現場では本疾患に気が付かないこともある。痛みのない場合や、腕神経叢の遠位の障害、腕神経叢以外の障害の場合である。 しかし、70%の患者は古典的な診断しやすい似たような症状を呈する。すなわち肩の急性疼痛があり翼状肩甲を呈し、肩の外転と外旋筋力の低下、ピンチ力・前弯回内の筋力低下を呈する。
神経痛性筋萎縮症の原因は自己免疫である。治療にはステロイドや免疫グロブリンが用いられてきた。 ステロイドのRCTは、患者数が目標機関内に集まらなかったため不幸にも失敗した(著者、未公表データ)。理由は、診断までの機関が長かったためだ。これまでは診断までの平均は11週と報告されている。これまで発生率は1人/10万人/年と報告されていたが、オランダきっての神経痛性筋萎縮症専門病院であるRadboud university medical center での経験から実際にはもっと多いと疑っている。
本研究では古典的神経痛性筋萎縮症の発生率を調査することである。もう一つの目的は神経痛性筋萎縮症と他の疾患の症状の特徴を比較することである。
対象と方法
二つのプライマリケアセンターで行われた。Table1の、病名の登録コードから新規頸部、肩、上肢痛のある患者を登録した。手根管症候群は除外した。診断のトレーニングを行い、裸身を診察するように指導した。頚椎、肩関節疾患を除外した。両肩を外転してもらい、異常な動きがあるようであればスマホで録画し後日再検討した。前鋸筋
(serratus aterior)、肩内旋、ピンチ力の筋力テストを行った。
専門診療の必要性の判断は、初診医の裁量で行った。 専門医の診療を受けていない患者のみ、神経内科医(著者)が診察した。
遺伝性神経痛性筋萎縮症の診断基準を改変したものを使用した。
Table2
神経痛性筋萎縮症診断基準
. 急性、亜急性発症
. NRS7点以上の初期の疼痛
. 近位腕神経叢、翼状肩甲をともなう多原性の神経症状
. 再発しない(Monophasic course)、緩徐に回復
. 外傷、悪性腫瘍、糖尿病、放射線治療は除外
軽症例は、疑い例とした。
結果
Fig1. 492名が新規頸部、肩、上肢痛で登録された。
34例(男性21名)が神経痛性筋萎縮症の疑い症例だった。そのうち、登録病名は肩の愁訴が15例、その他の末梢神経障害 9例、頸部の愁訴4例、その他6例だった。
神経内科専門医の診断で14名(男性9名)が確定診断とされた。
14名は、痛み止め、経口ステロイドで治療された。理学療法での治療も行われた。良くなった人もいれば、悪くなった人もいた。
1名は遺伝性神経痛性筋萎縮症だった。
神経痛性筋萎縮症の発生率は1/1000人/年だった。
各疾患群の背景をtabel3に示す。(年齢は40代、男性に多い傾向、上肢痛、運動麻痺、感覚障害が特徴。なんらかの疾患を契機に発症することがある。)
ディスカッション
神経痛性筋萎縮症の発生率は1/1000人/年だった.
神経痛性筋萎縮症は、従来の報告よりも30-50倍多いことが分かった。
疾患自体があまり周知されていない事が理由と考えた。本疾患は、rare diseaseとはいえない発生率であると考えられた。
25%の労働者は仕事ができなくなると報告されており、経済的損失は膨大であろう。
本研究では、性別や年齢は診断に有用ではなかった。 診断のポイントをまとめてみた。Passive ROM制限
筆者の推薦する診断のポイント (根拠の提示なし)
神経痛性筋萎縮症を考慮
・痛み止めの効かない重度の肩もしくは上腕の痛み。
・ 夜間に悪化、安静時痛有り。
・ 多発性の末梢神経症状。両側症状があっても、対称性ではない。
検査
・ 肩と上半身の筋萎縮をチェック
・ 肩の動きの異常をチェック
・ 上肢の筋量の左右差をチェック
リミテーション
診断基準はあるものの、ゴールデンスタンダードは無い。補助的検査として、神経伝導速度があるが、異常がない場合もある。頚椎のMRI異常があっても、症状の説明がつかない場合もある。
結語、 神経痛性筋萎縮症は予想よりも多い事を念頭に置き、早期診断をすることにより、ステロイドや免疫グロブリン大量療法による早期治療法をしたほうがよいだろう。
2015-07-08