腰椎椎間板ヘルニアによる坐骨神経痛に対する経口ステロイドの効果のRCTによる研究を紹介します。
有効性はあるようです。腰痛の機能評価(ODI)には小さいながらも有効性があり、下肢痛には部分的に効果があったようです。
論文中のプレドニゾロンの投与量は、開始時で60mg/日。日本での保険適応の上限の高容量です。高容量のせいか本研究では不眠、精神症状の副作用が多かったため注意が必要です。
NSAID内服、硬膜外ブロック、神経根ブロック、手術などの治療法を選択できない事情のある患者さんに有用かもしれません。
Oral Steroids for Acute Radiculopathy Due to a Herniated Lumbar Disk
JAMA. 2015;313(19):1915-1923. doi:10.1001/jama.2015.4468
Harley Goldberg, DO, et al. (学位のDOは、オステオパシー医学の医師。アメリカではM.D.と並ぶ正規の医師である。)
要約
経口ステロイドは坐骨神経痛や腰椎椎間板ヘルニアの治療で用いられてきたが、適切な臨床試験はなされていない。
目的 プラセボと比較して、経口プレドニゾロンがプラセボと比較して機能や疼痛改善に効果があるかを検討する。
デザイン RCT,2008年から2013年、ノースカロライナ州、大規模医療施設にて実施。269名の成人、3ヶ月以内の神経根痛、Oswestry Disability Index (ODI、100点満点)が30点以上、LDHがMRIで診断された者。
インターベンション 参加者は無作為に2:1で15日間の経口プレドニン(60mg x 5日間、40mg x 5日間、20mg x 5日間、181名)とプラセボ(88名)に振り分けられた。
メインアウトカム プライマリアウトカムは、3週後のODI変化量。セカンダリアウトカムは1年後のODI変化量、下肢痛のNRS、手術実施。
結果 開始時と3週時のODIはそれぞれプレドニゾロンで51.2点、32.2点、プラセボで51.1点、 37.5点だった。
補正後のODIは、プレドニゾロン群で6.4点 (95% CI, 1.9-10.9; P = .006)改善し、52週時点で7.4点 (95% CI, 2.2-12.5; P = .005)の改善を認めた。
補正後の痛みは、プレドニゾロン群で0.3 point (95% CI, −0.4 to 1.0; P = .34)改善し、52週時点で0.6 point (95% CI, −0.2 to 1.3; P = .15)の改善を認めた。
補正後のSF-36 PCS scoreは、プレドニゾロン群で3.3-point (95% CI, 1.3-5.2; P = .001)改善し、52週時点では差がなかった。SF-36 MCSは3週で差がなかった(mean, 2.2; 95% CI, −0.4 to 4.8; P = .10)が、プレドニゾロン群で52週時点で3.6-point (95% CI, 0.6-6.7; P = .02)の改善を認めた。
手術にいたる割合は差がなかった。
副作用の手術現頻度はプレドニゾロン群で多かった(49.2% vs 23.9%; P < .001)。
結語
ヘルニアによる急性神経根症において、経口ステロイドの短期使用は機能を改善したが痛みは改善しなかった。
本文
背景
急性神経根症(坐骨神経痛)は、臀部から下肢の神経走行にとった痛みである。一般に髄核の脱出が原因である。生涯のヘルニア発症率は10%である。自然回復しなければ、硬膜外ステロイド注射や椎間板切除術が実施される。硬膜外ステロイド注射はエビデンスは確立していないが神経の炎症を抑える効果があるとされる。硬膜外ステロイド注射は、施行前にmriを撮ったほうが良いとされ、侵襲的な手法である。FDAは硬膜外ステロイド注射で深刻な神経合併症が起こることがあると警告している。経口ステロイドは多くの医師が使用しているが、エビデンスが乏しかった。 今回我々は、パラレルグループ、二重盲検のRCTを組んで、15日間のテーパリングコースの経口ステロイドと、プラセボを、急性期のヘルニアによる腰椎神経根症に用いた。
方法
18才から70?歳のMRIで診断の確定している腰椎椎間板ヘルニアで、下腿以下の痛みがあり、ODI30点以上の患者を対象とした。除外基準は3ヶ月以上の疼痛、手術歴、糖尿、運動麻痺、訴訟・労災患者。3箇所の診療所から患者を募集した。
侵襲
プレドニゾロンを60mg x 5日間、40mg x 5日間、20mg x 5日間で飲んだ。Nsaidは3週間のあいだ飲まず、その後解禁した。プラセボは同じ外見のカプセルを内服した。
評価方法
プライマリアウトカムは、3週後のODI変化量(100点満点)。なぜ3週にしたかというと、急性期の痛みに効果があるかどうかを検討したかったからである。セカンダリアウトカムは1年後のODI変化量、下肢痛のNRS、腰椎手術実施。SF36。下肢痛のLikert scale。
研究の計画
MRI診断は二人の医師によって確定された。variable block sizes のランダム化を行った。
患者は3週後と24週後に受診し、6,12,52週後に電話をした。3週後以降も疼痛が強い患者は、硬膜外ステロイド注射を勧められた。副作用はモニタリングされた。2008-2013に実施された。
統計学的検討
7点のODIの違いを90%の確立で検出する統計学パワーがある。7点の違いというのは、すでに報告されている臨床的に意味のある最小のODIの差である。226名の参加で、20%がドロップアウトすると270名がサンプルサイズとして登録された。 最終的にベースラインデータ、SLR陽性の有無、発症からランダム化までの期間、を用いて結果を補正した。
結果
269名が参加した。人種はプレドニゾロン群で白人が多かった。その他のベースラインデータに差はなかった。3週後の評価は267名(99.3%)、52週後は87%を評価した。254名は全ての薬剤をのみ、263名は75%以上の薬剤を飲んだ。
Fig2
両群とも6週目までに症状が改善した。
開始時と3週時のODIはそれぞれプレドニゾロンで51.2点、32.2点、プラセボで51.1点、 37.5点だった。プレドニゾロン群とプラセボ群は補正前で5.6点(P=0.01)の差を認め、補正後は6.4点(P=0.006)の差だった。52週時点で補正後は7.4点 (95% CI, 2.2-12.5; P = .005)の改善を認めた。
SF-36 MCSは3週で差がなかった(mean, 2.2; 95% CI, −0.4 to 4.8; P = .10)が、プレドニゾロン群で52週時点で3.6-point (95% CI, 0.6-6.7; P = .02)の改善を認めた。手術にいたる割合はプレドニゾロンで9.9%、プラセボ群で9.1%で差がなかった。
サブグループ解析(年齢、性別、人種、発症からの期間、SLRテスト、運動麻痺)では、ODIとNRSの結果に影響する因子はなかった。
Table3
副作用の出現頻度はプレドニゾロン群で多かった(49.2% vs 23.9%; P < .001)。だが、その多くは不眠やいらいらなどステロイドの副作用として予想されたものだった。
5例の重篤な有害事象があり、虫垂炎手術、自殺企図、DVTの3例はプレドゾロン群で、上部消化管出血、腎癌摘出術の2例はプラセボ群だった。
3週の時点で、プレドニゾロン群の75%、プラセボ群の53%が、実薬だと考えていた。
考察
ヘルニアの治療は、運動療法、リハビリ、内服、硬膜外ステロイド、手術など多岐にわたる。過去35年の間に6件の硬膜外以外のステロイドに関する臨床試験が実施された。これらの試験はすべて規模の小さいもので、ステロイドの有効性を示したのもは無かった。 最も新しい研究では、ステロイドの筋注が一ヶ月後の痛みと昨日に有効だったと報告していた。その為、本研究では充分な統計学的パワーをもったRCTを行った。
本研究では、3週、52週でわずかなODIの改善を認めた。しかし、下肢の疼痛は優位差が無かった。
手術にいたる割合も差がなかった。 しかし、副作用は3週の時点でおおかった。52週では少なかった。
補正後のODIは6.4点改善していた。これまでの報告から臨床的に意味のあるODIの差は5−10点とされており、この差が意味のあるものかどうかははっきりしていない。ただ、経口ステロイドは機能改善のメリットがあると考えられるが、その適応は個々のケースにより患者と医師の判断によってなされるべきだろう。疼痛が改善した分だけ機能が改善し痛みの限界まで動けるようになるので、疼痛よりも機能のほうが改善していることを説明できる。
52週の時点でもODI、疼痛に効果があった。プレドニゾロンが長期にわたって効果がでるメカニズムはわかっていない。
経口ステロイドの目的の一つに、侵襲ある治療を避けることがある。だが、手術にいたる患者を減らすことができなかった。
本研究の強みは、有効なランダム化、高い継続率、高いフォローアップ率、患者立脚型評価である。リミテーションは、発症後3ヶ月というのは長すぎた。しかし、発症からの期間は結果に影響しなかった。プレドニンの量が少ないかもしれない。経口ステロイドの副作用があったため、実薬と気がついたかもしれない。セカンダリアウトカムを多数設定したが、多数設定による調整をしていない。MRIを撮影した患者、ODI30点以上の患者のみしか対象としていないため、一般化に限界がある。
結語
ヘルニアによる急性神経根症において、経口ステロイドの短期使用は機能を改善したが痛みは有意に改善しなかった。
2015-12-09