頚椎症性脊髄症などに対する頚椎の術後のカラーは、やっかいで、患者さんにとっての悩みの一つです。いつまで着ければいいのか、まだまだはっきりしません。 日本語文献2つ、英語文献1つを紹介します。頚椎手術、特に後方法のエビデンスはほぼ日本から発信していると言っても過言ではありません。
頚椎カラーに限らず、装具やリハビリなどの脊椎外科分野における術後の後療法は、手術法などの分野と比べるとまだまだエビデンスに乏しく、今後の課題です。
頚椎カラー固定に関する従来の報告
1) 吉田佑一郎, 田口敏彦, 加藤圭彦, 片岡秀雄, 今釜崇, 屋良貴宏: 頸椎椎弓形成術後の外固定について, in 中部日本整形外科災害外科学会雑誌(0008-9443), 2007, Vol 50, pp 1137-1138
フィラデルフィアカラー2ヵ月、カラーなし 55例。カラー有りで、可動域の減少
2) 木家哲郎, 浅野聡, 竹本知裕, 永井秀明, 片柳順也, 野原裕: 棘突起縦割式椎弓形成術後の頸椎alignment 頸椎カラー装着の有無による比較, in 東日本整形災害外科学会雑誌(1342-7784), 2002, Vol 14, pp 531-534
フィラデルフィアカラー8週 ソフトカラー2週 35例。 後屈可動域はソフトカラー群で有意に温存
Clinical Results After Cervical Laminoplasty
Differences Due to the Duration of Wearing a Cervical Collar
IF1.3
J Spinal Disord Tech 2005;18:489–491)
Department of Orthopaedic Surgery, Gunma University Graduate School of Medicin
タイトル:頚椎椎弓形成術後のカラー固定期間による術後成績の違い
目的: 本研究では、カラー着用期間と臨床成績の間の関連を調べた。
方法: 頚椎症性脊髄症患者25人に対し、頚椎椎弓形成術を施工し、術後8週間カラー固定を行い、平均27週フォローした。 もう一つのグループでは、26名の患者に対し、椎弓形成術を施行し、術後4週間のカラー固定を行い、33週フォローした。
結果: 両方のグループでは、JOAスコア改善率と、レントゲン側面像での可動域を経時的に術前後で比較した。両群間ではJOAスコア改善率に有意差は無かった。4週カラー固定した群では8週と比較して、特に伸展位の可動域が保たれていて、全体の可動域も保たれていた。
結語: 早期のカラー離脱により、ファセットの拘縮と、伸展機構の術後の萎縮と機能低下を予防できる可能性がある。
本文
椎弓形成術は一般的な手術法であり、その優れた成績はたくさん報告されている。様々な手術法が多椎間の狭窄に行われ、報告されている。あるものは、可動域は頚椎椎弓形成の術後に22-70%に減少すると報告している。しかし、その術後の後療法は特にカラー装着期間は、同一とは言えなかった。本研究では、カラー装着期間と術後成績の関係を調べた。
対象と方法
1996-2001年の間の91人の椎弓形成術を施行した患者を後ろ向きに検討した。1998年以前は、患者は術後フィラデルフィアカラーを8週間装着した。それ以降は、4週に減らした。外傷後の除圧、OPLL、頚髄腫瘍摘出術、脳性麻痺、前後方固定に対する頚椎椎弓形成術を除外した。全患者は、頚椎症性脊髄症であった。残り58人のうち、51人を分析した。25名(平均年齢61歳、男性13人)は術後に8週カラーを装着し、平均27週フォローした。26名(平均年齢60歳、男性16人)の患者は術後4週間のカラー固定を行い、33週フォローした。術式はすべてC3-7open-door laminoplastyだった。
全患者は同じ型のカラーを付け、理学療法は行わなかった。臨床症状はJOAスコアを用いて評価した。改善率は平林法を用いた。
更に、術後の頚椎可動域を術前と比較した。C2下縁とC7上縁でアライメントを計測した。
そこからさらに前屈、後屈の可動域、全可動域を測定した。
結果
JOAスコア
8週群では、平均の術前JOAスコアは11点で、術後に14点に改善した。改善率は55%だった。4週群では術前10点、術後14点、改善率は59%だった。
改善率に両群間に有意差は無かった。
可動域
術前: アライメント、 前屈域、 後屈域に有意差なし
術前後の変化: アライメント…両群とも維持された(P値記載なし)
前屈域… 8週群 61% 4週群 75%に に。両群とも有意に減少。
後屈域… 8週群 41%(有意に減少) 4週群 82%(術前後有意差なし、 僕の研究結果と同様。
全可動域… 8週群 54% 4週群75%に減少。 4週群が有意に維持できていた。
考察
他椎間狭窄を伴う頚髄症において椎弓形成術はもはや一般的な手術法で、椎弓切除と固定術より好ましいとするコホート研究や、椎体切除よりも合併症が少なく、満足度も高いとする報告もある。
可動域は、術前の20-70%までに減少すると報告されている。可動域が減少するから動的要素が減って、頚髄症に有利に働くと言う人もいる。
セイチらは、可動域減少は術後のfaset fusionが原因といっている。石田は、可動域は、ラミネくトミーでは後屈域でより制限され、椎弓形成では、前屈がより制限されるといっている。(本研究と逆)傍脊柱筋、特に頚半棘筋を剥がすことによる機能低下が原因と考えられてた。
ハヤシらは、学会発表で、術後固定期間を短くすると、頚部痛が軽減すると報告し、アサノさは、学会発表で、術後管理の違いでわけた2群に神経症状の改善に差がなかったと報告している。
本研究では、神経学的所見は、4週カラー固定でも、良好に回復した。
さらに、術後の可動域は4週固定群の方がたもたれていた。とくに後屈の可動域がたもたれていた。後方法は、普通術中に伸展筋を剥がし、棘突起にinsertionし?(奈良医大式の事?)、レトラクトする。更に術後の固定が伸びると、関節が拘縮し筋が萎縮する。
早期のカラー除去が術後の関節拘縮、筋萎縮、伸展筋の機能低下を予防でき、可動域がたもたれると考えられた。
結語
早期のカラー除去は神経症状の回復の妨げにはならず、可動域の維持、特に伸展域の維持に有効であると考えられた。