2021-09-19
亜鉛はアルカリフォスファターゼ(ALP)を始めとする亜鉛酵素のもととなる重要な微量元素です。亜鉛はその多くが筋肉に分布し、骨格筋は亜鉛の恒常性に寄与するとされています。
臨床現場では難治性褥瘡や低栄養、慢性炎症疾患での亜鉛欠乏の診断と亜鉛補充が大事です。
しかしながら亜鉛欠乏とサルコペニアとの関連はまだまだわかっていないことが多いです。
私が学会で報告したところ、好評でしたので抄録を紹介します。
「サルコペニアと亜鉛欠乏」
飛田 哲朗、他.
所属 名古屋第二赤十字病院整形外科
日整会誌(J. Jpn. Orthop. Assoc.)95( 2 ). S2021
2021年5月 第94回日本整形外科学会学術総会にて口演発表
英題 Sarcopenia and zinc deficiency
【背景】亜鉛欠乏は慢性炎症、創傷治癒遅延等の様々な症状をきたす。臨床現場では病態の認知不足から亜鉛欠乏が見逃される事も多い。慢性炎症はサルコペニアの一因であり (Hida, Mod Rheumatol 2018)、亜鉛は抗炎症作用を介してと筋代謝と関連する可能性がある。しかしながらサルコペニア患者における亜鉛欠乏の実態は不明な点が多い 。
【目的】サルコペニア患者における亜鉛欠乏と筋量の実態を明らかにすること。
【対象と方法】本研究は前向き観察研究として院内倫理委員会承認を得て実施した。2018年7月から2020年8月の間に同意の得られた整形外科入院患者167名を対象とし前向きにデータを収集した。入院時もしくは外来受診時に血清亜鉛値測定および全身DXAによる補正四肢筋量測定を実施した。ペースメーカー患者は除外した。AWGS基準に準じサルコペニアを診断し、サルコペニア群とサルコペニアの無い対照群を比較した。血清亜鉛値60μg/dL未満を亜鉛欠乏とした。統計検討にはT検定、χ二乗検定、ピアソン相関係数、共分散解析を行い、有意水準<5%とした。
【結果】サルコペニア群105名、対照群62名を解析した。平均年齢は サルコペニア群で高かった(80.5±9.9才 vs 70.1±13.2才, p<0.001)。女性比はサルコペニア群で高い傾向にあった(58.1% vs 48.4%, p=0.26) 。亜鉛欠乏の有病率はサルコペニア群で高かった(36.2% vs 12.9%, p<0.005)。共分散分析による年齢・性別補正後の血清亜鉛値はサルコペニア群で有意に低かった(63.1±1.6μg/dL vs 75.4±2.0μg/dL, p<0.001)。血清亜鉛値と補正四肢筋量の間には有意な正の相関を認めた(R=0.25, p<0.005)。
【考察】サルコペニア患者における高い亜鉛欠乏有病率が明らかになった。血清亜鉛値は筋量と相関し、亜鉛欠乏と筋量低下の関連が示唆された。サルコペニア患者においては、亜鉛欠乏合併の可能性や亜鉛補充を念頭に置き治療にあたる必要があると考えられた。
サルコペニア診療のためのおすすめの書籍
2014/5/25 島田 裕之 (編集)
毎年重版を繰り返す人気の本です。僕自身も「臨床におけるサルコペニアの診断」
を寄稿しています。わかりやすく、サルコペニアの入門書としてぴったりだと思います。