先日(2014年5月22-25日)、神戸で開催された日本整形外科学会に参加してきました。日本整形外科学会は毎年二千題以上の研究の発表が行われる、整形外科最大の国内学会です。そこで、サルコペニア関連2題、脊椎関連1題の発表を行いました。
サルコペニア肥満と運動機能の関連を調べた抄録を下に引用します。朝日新聞の取材を受けるなど、反響の大きい発表でした。
題名:一般住民におけるサルコペニア肥満と運動機能への影響
演者: 飛田 哲朗、今釜 史郎、村本 明生、濱田 恭、石黒 直樹、長谷川 幸治
所属:名古屋大学医学部整形外科、名古屋大学医学部下肢関節再建学
Sarcopenic obesity and locomotive function for community living elderly people
【背景】体重は同じでも転倒・骨折のリスクが高い「サルコペニア肥満」は、サルコペニア(加齢性筋肉減少症)に肥満を合併した病態で、近年注目を集めている。一般住民を対象とした疫学調査でサルコペニア肥満の現状および運動機能への影響について明らかにする。
【対象と方法】 2013年に北海道八雲町の住民健診に参加した323名(平均年齢64.7歳、男性144名、女性179名)を対象とした。生体電気インピーダンス(BIA)法により体組成(筋量、脂肪量)を四肢部位別に測定した。運動機能として最大歩行速度、背筋力、握力、3mタイムドアップアンドゴーテスト(3mTUG)、最大歩幅、2ステップテストを測定した。体脂肪率が男性25%以上、女性30%以上を肥満ありとした。サルコペニアの診断にはBIA法による日本人筋量基準値を用いた。肥満およびサルコペニアを呈する者をサルコペニア肥満群としサルコペニアおよび肥満のない正常群と比較した。統計学的検討にはχ二乗検定および一般線形モデル(GLM)を用いた共分散分析を行った。運動機能はGLMにより年齢、性別で補正し評価した。
【結果】サルコペニア肥満の有病率は男性9.7%、女性15.1%で性差を認めなかった(P=0.51)。正常群と比し、サルコペニア肥満群では、最大歩行速度(2.0m/s vs. 1.8m/s, P=0.01)、背筋力(75kg vs. 62kg, P=0.006)、握力(33kg vs. 28kg, P<0.001)、3mTUG(6.1s vs. 6.8s, P<0.001)、最大歩幅(120cm vs. 109cm, P<0.001)、2ステップテスト(238cm vs. 214cm, P<0.001)において有意な運動機能の低下を認めた。
【考察】サルコペニア肥満患者における著明な運動機能低下が明らかになった。重い身体の活動を少ない筋量で行う為と考えられた。サルコペニア肥満は筋量の減少による基礎代謝の低下と日常活動の減少が肥満を悪化させ、さらに運動量が減少する悪循環を呈する。今後は健診による早期診断の確立と食餌・運動療法による介入を検討する必要がある。